フランスでは、試験や重要な会議、大事なデートの約束を目前にしている人に対して、「Bonne chance」ではなく、「Merde」と言うことがある。
確かに、フランス人の祖父を持つぺぎぃも、その昔エンジニア専門学校の試験を受けるときに、祖父に:「Bonne chance という言葉は不幸をもたらすから、Merde と言ってやるよ」と言われたことがある。
では、「Bonne chance」の代わりに「Merde」と言う風習は一体どこからくるものなのか?
この記事ではその由来について話していこう。
- フランスでは何故「Bonne chance」の代わりに「Merde」と言うのか?
因みに、先に説明しておくと、「Bonne chance」という言葉は直訳すると「(あなたに)幸運を」という意味にあり、「Merde」という言葉は直訳すると「糞」という意味である。
これは、はたからすると相手に暴言を言っているように聞こえるが、実は全くそうではない。
親しい友人や、愛する人に対しても、成功を祈る時には「Merde(=糞)」と言う人がフランスにも結構いる。
では、一体何故「Merde」という言葉が「幸福」や「成功」に結びつくのだろうか?
目次
何故「Bonne chance」の代わりに「Merde」と言うのか?
冒頭にも書いたが、「Merde」という言葉は本来は「糞」を表す非常に低俗な言葉で、現代のフランス社会でも品の良い言葉とは決して言えない。
しかし、19世紀の後半や20世紀の前半辺りから、この言葉は試験や面接など、大事な局面を目の前にしている人に対して「励ましの言葉」としても用いられるようになったのである。
その理由は定かではないが、「芸術や演劇の世界が発端となっている」という説が一番有力である。
1-1. 「Merde」=「成功を表す言葉」
19世紀の終わりの、劇場やオペラでのエンターティメントが盛んだったころ、多くのフランスのブルジョアや貴族たちは馬車に乗って舞台に通っていた。
その際、駐車場のようなものがなかったため、馬車は劇場の入り口付近で止められ、その馬たちは必然的に入口の前で用を足すことになる。自然の原理である。
更に、劇場に向かう観客たちも入り口を通るので、(汚い話であるが)彼らは誰もかれも入り口の前に落ちている糞の中を歩き、その汚れた足の裏でパフォーマンスホールの中をうろつきまわったとされている。
つまり、舞台が成功し、より観客が訪れるようになればなるほど、劇場の前に止まる馬車の数も多くなり、糞の数も増え、それを踏んで入場する観客の数も増えるため、劇団の人々からすると「より多くの糞を願う=演劇の成功を願う」ということになったのである。当然、多少なりともユーモアが入り混じっていたこと、も間違いない。
1-2. 「Bonne chance」は縁起が悪い?
これもまた、起源がはっきりとはしていないが、「Merde」という言葉が有名になった19世紀末頃、同じ演劇の世界では「Bonne chance」という表現は不幸を招くという迷信を信じていた人が多かったらしい。
一体何がどう「不幸を招く」のか、ぺぎぃに聞かれてもさっぱりだが、とにかく「Bonne chance」と伝えると、その後大惨事になる可能性が高いとされていたようだ。
そこで、「Bonne chance」に代わる言葉を探していたところ、「Merde」という素晴らしい言葉と、まさに「運・命的な出会い」を果たしたのである。
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フランスの現代社会でも「成功を祈る=Merde」を使って問題ないのか?
なるほど、これでようやく「Merde」が何故幸福をもたらすのか理解できた。
しかし、事の発端は19世紀~20世紀の話である、「Merde」や「Putain de merde」など、汚い俗語ベストランキング入りしているこの言葉をフランスの現代社会でも気軽に用いてもよいのだろうか?
そこは難しいが、言ってしまえば、人それぞれである。
記事の冒頭にも書いた通り、ぺぎぃの祖父なども未だにこの迷信が入り混じった風習を大事にし、「成功を祈る」と伝えるときには「Bonne chance」ではなく「Merde」と言っていたりする。
かといって、「Bonne chance」と伝えてはいけないのかというと、そうでもない。
ぺぎぃの周りの友人にも「Bonne chance」を普通に使っている人もいるし、今更過去の馬車の糞の話を持ち出しても何にもならないのである。
2-1. ぺぎぃは「Bon courage」を愛用している
「Bonne chance」は人によっては「縁起が悪い」と捉えられる可能性がある。
「Merde」も人によっては、「何こいつ、俺に糞と言ったのか?」と説明が難しい可能性がある。
そこで、ぺぎぃが愛用している表現は「Bon courage」というものである。
この表現は、直訳すると「あなたに勇気を」と些か不自然な響きになるが、簡単に言うと「頑張れ」や「応援しているよ」に近い意味の言葉である。
また、日本語の「頑張れ」という言葉は、人によっては「僕は既に全力で頑張っているのに、何で更に頑張れなんていってくるの!?」とおかしな捉え方をされる可能性があるが、この「Bon courage!」という言葉は、飽くまで「応援」の意味での「頑張れ」なので、特に妙な空気になることもない。
2-2. ぺぎぃは「Bonne chance」も「Merde」も用いていない
ちなみに、「Bonne chance」と「Merde」に関してはどうかと言うと、ぺぎぃは正直どちらの表現も用いていない。
「Bonne chance」という表現が不幸を招くという迷信を信じているわけではないが、少なくともぺぎぃの祖父がこの表現を嫌っているようだったので、それに敬意を表してぺぎぃは使っていない。
「Merde」に関しては、単純に知らない人に対していちいち説明が面倒なため、避けているだけである。
2-3. その他の便利な表現
最後に、おまけとして、他にも「成功を祈る」や「幸運を祈る」として使える表現を少しだけ紹介しておこう。
これは前回の「ぺぎぃLIVE」でも出てきた表現だが、基本的に以下の2つが便利である。
Je touche du bois.(直訳:木材を触る)
これは、木でできた十字架の上でキリストが亡くなったので、木製の物に触れることによって不運から身を守ったり、悪霊を追い払ったりすることができるという迷信から来ている表現である。
本来は宗教が発端となっている表現だが、現在ではキリスト教徒ではなくても使われている。
「幸運を祈る」や「成功を祈る」という意味。
Je croise les doigts.(直訳:指を交差させる)
こちらもまた、キリスト教が発端となっている表現。
両手(または片手)の人差し指と中指を絡めながらさせながら「Je croise les doigts.」と言うことで、自分や相手に対して「幸運を祈る」という意味で用いる。
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