日本人からもフランス人からも頻繁に受ける質問に「日本で働くのとフランスで働くのとどちらがよいの?」というものがある。
そこで本記事はこの質問に対し、日本とフランスのどちらでも就職経験のあるぺぎぃが、一人のエンジニアとしての目線で回答していきたいと思う。
日本で働くのとフランスで働くのとどちらが良いのか?
- 労働時間で考えた場合
- 給与・賞与で比較した場合(エンジニアの場合)
- オフィス環境を比べた場合
ちなみに、ぺぎぃはフランスのグランゼコール卒のエンジニア。しかし、実は卒業してから初めて新入社員として雇われたのは、日本にある日本のメーカーである。その後色々と心境に変化があり、最終的にフランスに帰ってきたのであるが、ちょうど今年の夏休みを超えれば、日本とフランスで働いた経験年数がピタリ3年と3年になる。
そこで今回の記事では、未だに出会う人々の大半に尋ねられる:「日本とフランスで働くのはどちらが良いのか?」という問い対して少し深堀をしていきたいと思う。
もちろん、この手の質問への回答は決して簡単なものではなく、職種にもよるだろうし、働く会社にもよるだろうし、個人の性格や目標などにもよると思う。そのため、今回は飽くまで人に最も良く尋ねられる:労働時間・年収・オフィス環境の3つの軸に対して、ぺぎぃの経験談を中心に考えていきたいと思う。
6年前のぺぎぃのように、日本で働くべきか、またはフランスなどの海外で働くべきか、迷っている方にとって少しでも参考になれば幸いである。
目次
日本とフランスの働き方の違いとは?
ちなみに、念のため弁解させていただくが、今回の記事は「日本企業のここが嫌だ」とか「フランスの企業はこれだからダメなんだ」などと誹謗中傷をすることが目的ではない。
ぺぎぃが務めた/務めている企業はどちらも個人的に優良企業だと心から思っているし、ぺぎぃが日本企業からフランス企業に転職した理由も「実際に働き方の違いをその目で見て見たかった」というのが最も大きな理由であったと言っても過言ではない。
また、今回の記事の内容は飽くまで「ぺぎぃのエンジニアとしての体験談」をベースとして話しているので、捉え方は人によって格差があり、それは個人の職種や働く環境、時代や勤め先によっても色々と異なってくると思われる。
まぁ、あまり弁解をしてしまうと本記事のメリットが薄れてしまうため、ここら辺にしておくが、飽くまでぺぎぃは中立な視点から日本とフランスでの働き方を比較しているということだけは信じてもらいたい。
1-1. 日本とフランスでの労働時間の差
さて、まずは労働時間の比較から始めてみよう。
日本でもフランスでもよく聞くのが:「日本人は働きすぎだ!」というのと、「フランス人はいつもバカンスを取りすぎだ!」という言葉である。これは果たして本当なのだろうか?
一日当たりの労働時間について
日本でもフランスでも、基本的に仕事をするのは土曜日と日曜日の週末を除いた5日間。この5日間の時間の使い方が日本とフランスでは大きく変わってくる。
ぺぎぃの日本の労働時間
まずは、日本でのぺぎぃの一日の過ごし方を大体平均して以下の図に表してみた。
平日での起床は大体6時、そこから会社へ行く準備をして6時半には出勤、会社に到着するのは大体7時から7時半頃である。そこから、軽く売店で朝食を仕入れたのち、昼休みまで仕事、そして1時間の休憩が終わったら夕方の17時半頃まで仕事。そして、そこからは通常残業が夜の20時から22時頃まである。
勿論、日によって18時に退社することもあれば、会社の上司や同僚との飲み会で帰宅が夜中の24時以降になるときもある。平均すれば、家に帰宅するのは大体いつも21時から22時辺りである。
合計すると、通勤時間を省いても、会社に滞在している時間は週に約50~60時間(昼休み含む)となる。
ぺぎぃのフランスの労働時間
続いて、フランスでのぺぎぃの一日の過ごし方を平均した図を以下に示そう。
起床は日本と同じく大体6時、そこから朝食を作ったり、ニュースやブログ関連の趣味の時間を少し過ごしてから、7時半から8時の間に出勤、会社へは大体8時少し過ぎに到着する。そこから大体11時半頃まで仕事をして昼休みに入り、昼休みの時間が自由だが大体13時頃から復帰して、夕方の17時過ぎまで仕事を再開する。そして、帰宅は大体17時半である。
ここでも勿論、日によって17時以降も仕事を続けなければならない場合もあったりするが、基本的には上司も同僚も皆定時の17時過ぎには帰宅することが多い。なぜなら、フランスのエンジニアには残業代がないので、「残るだけ損」と考える人が多いがらである。
また、ぺぎぃの現在勤めている会社は20時半を過ぎると全ての門が閉じてしまい、扉も開かなくなってしまうので、最悪の場合は中に閉じ込められてしまうことになる。そのため、余程のことがない限りは残業はしないし、するとしても20時には必ず退社するように心がけている。
通勤時間を省いて合計すると、会社に滞在している時間は週に約45~50時間(昼休み含む)となる。
有給休暇について
次に有給休暇についても見てみよう。「フランス人がバカンスを取りすぎている」というのは果たして本当だろうか?
ぺぎぃの日本の有給休暇
日本で働いているぺぎぃの知り合いなどからは「日本では有給休暇が取りにくい」という話をよく聞くが、この記事では飽くまでぺぎぃの経験談を中心としている。
そのぺぎぃの経験から結論を言ってしまうと:「与えられた有給休暇は全て消費可能」であった。
例えば、「来週は良い天気だから温泉へ行ってきたい」と思い有休を申請すれば、何の問題もなく許可が下りたし、「秋にフランスに2週間帰りたい」と上司に言えば、「仕事の調整をちゃんとしてくれれば良いよ」と難なく申請が通ったのである。
では、実際に取得できる有給休暇の数はどうだろうか?
計算すると、実際に日本に存在する祝日が16日、それに加えて入社1年目から3年目にかけて取得可能な有給休暇が17日、18日、19日と増えていったので、年間での週末以外の休みは:
- 入社1年目:33日(そのうち、17日は自由に使用可能)
- 入社2年目:34日(そのうち、18日は自由に使用可能)
- 入社3年目:35日(そのうち、19日は自由に使用可能)
また、各年で、前の年から繰り越して使用できる有給休暇の数が20日まであったので、貯めておけば理論上は最大で40日間の有給休暇が使えるという計算になっていた。さすがにそこまでやってしまうと仕事が回らなさそうなので、ぺぎぃは消費していたが...
つまり、超ホワイト企業で働いていたぺぎぃの体験から結論付けると、日本でもある程度の自由な有給休暇は与えられていたのである。
ぺぎぃのフランスの有給休暇
続いてフランスの場合の有給休暇について見てみよう。日本の知り合いからはよく「フランス人はバカンスの量が多くていいなぁ」とよく言われるが、果たして実際はどうだろうか?
計算すると、実際にぺぎぃがフランスの会社で取得可能な有給休暇は、入社1年目で20日、入社2年目でも20日、そして入社3年目で22日となっている。(入社3年目からは「congés d’ancienneté(年功有休)」なるものが追加されていき、入社6年目で最大値の5日になる仕組み)
更に、それに追加として「RTT」と言われる働いた日数だけ加算されていく追加有休が年間で10日プラスされており、その内の5日は自由に使用可能となっている。残りの5日はクリスマスの周りや、元旦などに勝手に労働組合によってカレンダーに設定されている。
この数字だけ見ると、「なんだ、やはりフランスの方が有休は多いじゃないか!」となりそうだが、少なくともぺぎぃの会社では結論はそこまで単純ではない。なぜなら、「夏休み期間に有給休暇を最低20日間連続で設定すること」が社内ルールとして義務付けられているからである。
おわかりだろうか?
つまり、今まで述べてきた有給休暇の数と、フランスのカレンダーに存在する祝日10日間の合計を計算すると以下のような結果になる:
- 入社1年目:40日(そのうち、5日は自由、20日は7~8月に使用限定)
- 入社2年目:40日(そのうち、5日は自由、20日は7~8月に使用限定)
- 入社3年目:42日(そのうち、7日は自由、20日は7~8月に使用限定)
つまり、総合的に見れば、ぺぎぃが日本で働いていた会社よりも今フランスで働いている会社のほうが年間の休日の合計は多いのであるが、その大部分の使用期間があらかじめ決められてしまっているため、7月~8月以外で自由に使うことができる有休の日数は日本で17~19日だったのに対し、フランスではたったの5日~7日と、圧倒的に少なくなっているのである。
個人的には、夏休みのピーク時期を外して、好きな時期にのんびりと有休を使うことができないのは、かなりの痛手である。例えば、日本へ旅行に行くにしても、春の桜の時期や、秋の紅葉の季節へ行くのは難しく、夏休みの蒸し暑い時期に行くことしかできないのは悲しい...
1-2. 日本とフランスでの年収の差(エンジニアの場合)
それでは続いて、日本の会社での年収(給与・賞与)とフランスの会社での年収(給与・賞与)の差について比較していくとしよう。
ここでも飽くまでぺぎぃ一個人の体験談なので、勿論職種や業種、または個人のスキルによって結果は様々である。しかし、ぺぎぃを「フランスの一般的なエンジニア」、または「日本の大学院を卒業した一般学生」として捉えれば、現在日本や海外で就職を考えている人の参考に十分なるのではないかと思う。
日本での会社の給料
ぺぎぃが日本の会社に勤めたのは、日本の大学院を卒業してから3年間である。つまり、社会人経験1~3年目にあたる。
その3年間での給料の年間平均の内訳は以下のとおりである:
ご覧のように、固定でもらえる基本給料は年収の約60パーセントほどであり、残りの収入源は残業代やボーナスから来ている。おそらく日本の企業の大半はこのような年収設定の仕組みである。
フランスでの会社の給料
続いてぺぎぃがフランスの会社での年収について見てみよう。普通に考えれば、日本で3年間働いてからフランスに来たわけなので、社会人経験年数から考えれば4~6年目、本来なら年収は上がっているはずである。しかし、実際はどうだろうか?
以下に、フランスで働いた3年間の給料の年間内訳を示そう:
フランスでは、エンジニアは「管理職(cadre)」として扱われるため、実は残業代は一切支払われず、ボーナスも日本と比べると限りなく少ない額となっているのである。
両社の給料の比較
では、結果的に日本とフランスのどちらの国の方が年収が高いかと言うと、同じエンジニア職の場合は日本の方がフランスよりやや年収が高いということになる。
例えば、ぺぎぃの場合は、日本の企業で新入社員として働いていた社会人1~3年目の平均年収の方が、現在働いているフランスの企業での社会人4~6年目の平均年収より合計金額が高くなっている。
普通に考えれば、より経験を積んでいる社会人4~6年目の方が年収が上がっているはずなので、これは日本にいたときの方が年収が高かったということになる。
また、ぺぎぃの場合、基本給の面で比較してみるとフランスの会社の給料の方が高いため、「残業代を数えなければ日本の方が給料は低いじゃないか」と言う声も聞こえてきそうである。
確かに、ぺぎぃの場合はその通りである。
しかし、ここでもう一つ重要なのが、エンジニアの場合は:
・日本では:企業によって給料が決まることが多い
のに対し、
・フランスでは:個人の能力や交渉によって給料が決まることが多い
と言う点である。
例えば、日本の場合は、ぺぎぃと全く同じ大学院を卒業した新入社員でも、より有名な大手メーカーや総合商社に行けばぺぎぃの基本給の倍をもらうことが理論上可能であるのに対し、フランスの場合は、初回面接の時の交渉によって基本給料の額が決まるため、ぺぎぃと全く同じ能力しか持っていない人の基本給料が2倍になったり3倍になったりすることは少ない。個人的にはせいぜい+/-10パーセントくらいだと思っている。
これらの点をまとめると、一人のエンジニアに対する年収は、やはり日本の企業の方がフランスの企業よりやや高い傾向にある、ということになる。
1-3. 日本とフランスでのオフィス環境の差
最後に、日本とフランスでのオフィス環境の差について見てみよう。
日本でのオフィス環境
ぺぎぃが働いていた日本での職場はオープンスペース。個人用の机が1台あり、パソコンが1台備わっていた。
仕事をするのには個人的に何の不自由もなかったが、隣との人との距離が大体1メートルほどしかなく、敷居もない状態で何十人も並んで黙々とキーボードを叩いて作業をしていた記憶がある。
ここから察するに、日本の会社(少なくともぺぎぃが務めていた会社)では、仕事の作業効率をなるべく高めるため、余計な飾りは排除し、極力「仕事場」という雰囲気勤めに厳しかったような気がする。また、仕事中に音楽を聴くなどと言うのは勿論言語道断であった。
ちなみに、オフィスの掃除は、毎週月曜日と木曜日に当番の者が各チームの机周りを掃除機をかけてまわるというルールになっていて、机に関しても、ゴールデンウィークやお盆休みなどの長期休暇の前には必ずアルコール消毒をして自分できれいにするという決まりが存在していた。
個人的には「会社には仕事をしに来ている」というイメージが強かったので(まぁ、あたりまえだが)、職場が殺伐していても何の気にもならなかったし、むしろ集中して一気に仕事ができるため、かなり気に入っていた。
フランスでのオフィス環境
現在ぺぎぃが働いているフランスの職場もオープンスペースであるが、机は各個人に幅が2~3メートルもするものが3台与えられており、一つの小部屋のようなブースに2人だけで仕事をする形となっている。つまり、各個人に与えられた空間はとても広く、背中合わせの隣人との距離も大体2メートルほど離れていて、かなり開放的である。パソコンは日本と同じく、1台である。
更に、壁や敷居にも好きな写真やポスターを張ることができ、余った机に植物やぬいぐるみなどを設置して、まるで自分の部屋のようにブースをアレンジしている人もかなりいる。そして、掃除に関しては、毎週金曜日に外部の清掃会社が掃除機や机の雑巾がけをしにきてくれる。
また、仕事の合間に運動や音楽をするための施設が備わっており、昼休みや夕方に筋トレをしたり楽器を弾いたりして気分転換をすることが可能である。
おそらく、フランスの考え方は日本とは真逆で、仕事の効率を高めるためにはなるべく緊張感をほぐし、「気分を紛らわす」ことを重視しているのだろう。入社したての頃、質問があって同僚の席に行ったときに、大きなヘッドフォンをかけて仕事をしながら2つ目のスクリーンでYoutubeの音楽動画を流していたのがかなりの衝撃であった。
確かに、窮屈な空間より開放的なスペースの方がアイディアやひらめきが良く出てきそうな気がするが、個人的には集中ができなければ仕事効率も下がってしまうため、音楽を聴きながら仕事をするのはさすがにやりすぎな気がする。
結論:日本とフランスのどちらが働きやすいか?【個人の意見】
これまでの話を簡単にまとめると、以下のようになる。なお、何度も言うようだが、これは飽くまでぺぎぃの個人体験談である。人や会社によって体験はそれぞれかと思う。
日本の場合(ぺぎぃ体験談) | フランスの場合(ぺぎぃ体験談) | |
労働時間 | ・基本労働時間は1日8時間 ・そこから残業がほぼ確実に入る ・有給休暇は年間約20日 ・それらすべてが自由に使える | ・基本労働時間はなし(管理職) ・残業も個人の自由だが20時まで ・有給休暇は年間約30日 ・そのうち自由に使えるのは5日(残りは夏休みなど、使用が限定) |
個人の評価 | ||
給与・賞与 | ・基本給は企業や職種による ・追加で残業代が支払われる ・ボーナスの額がかなり大きい | ・基本給は能力と交渉で決まる ・エンジニアの場合は残業代がない ・ボーナスもほとんど支払われない |
個人の評価 | ||
オフィス環境 | ・必要最低限の設備 ・自分の机周りは自分で清掃する ・「仕事場」として集中できる環境 | ・各個人に広い空間 ・清掃業者の人が掃除をしてくれる ・「気分転換」を重視した環境 |
個人の評価 |
結果は見ての通りだが、どちらの国にも優れている点があり、甲乙がつけがたい状態である。
例えば、労働時間に関しては、有給休暇の自由度は少ないものの、個人的にはやはり平日の自由時間が多いフランスの働き方の方が好みである。当サイト『温泉ペンギンのたしなみ』もフランスの仕事環境があってこそ存在しているようなものであり、おそらく日本で働いたままだったら、この世に生まれることはなかった。
続いて、収入についてだが、こちらのほうはやはりボーナスの額が大きかったり、残業代がちゃんと支払われる日本の方に分がある。そして今回は経験不足なので全く触れなかったが、日本の場合は長年同じ企業に勤めた際の退職金なるものが存在しており、おそらく収入面で言えばそちらのメリットもフランスの企業と比べて大きい気がする。
そして最後に、オフィス環境についてだが、これもまた完全に各個人の求めているワークライフスタイルによって決まるので、一概にどちらが優れているとは言い難い。個人的には、「会社=仕事をする場所」として捉えているため、フランスのような広い開放的な空間は嬉しいのだが、別に日本のように密集して作業をする空間であっても全く気にならなかった。おそらくこれは、国民の性格にも寄せているような気がする。
...という訳で、今回の記事ではこれまでにぺぎぃが経験してきた「エンジニアとして働く」日本企業とフランス企業のメリット・デメリットを労働時間、年収、オフィス環境の3つの軸を中心に比較してみた。
他にも、仕事の捉え方や、作業の効率化についての考え方、一日の時間の使い方など、日本とフランスのエンジニアでは全く異なる要素がたくさん存在するので、また別の記事では「1日の職場での過ごし方」や「日本人とフランス人の仕事の進め方」などについても書いてみたいと思う。
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