前回説明した通り、フランス語には複数の過去形の活用方法が存在する。中でも、Indicatif(直説法)の Passé composé(複合過去)と Imparfait(半過去)、Plus-que-parfait(大過去)は、口頭でも非常によく使われる活用である。しかし、日本人など、フランス語を勉強し始めた人にとって、意外と最後の Plus-que-parfait(大過去)というものが曲者なのである。
過去形が複数存在するのは理解できたとしよう。現に英語でも、現在完了形(have+過去分詞)と過去形(didなど)が存在するため、理屈としては然程突飛ではない。
また、Passé composé(複合過去)と Imparfait(半過去)の違いも、前章の説明で、理解できたしよう。しかし、それでも『Plus-que-parfait(大過去)というのは一体何???』という質問が多い。
本章では、上記に示した通り、Plus-que-parfait(大過去)を用いる場面がわからないという人のために、ぺぎぃがわかりやすく説明していこうと思う。
目次
時系列をもとに考えてみよう
Imparfait(半過去)と Passé compose(複合過去)
時系列をもとに考えてみることにしよう。以下の図に表す通り、右端に Présent(現在)があるとする。
すると、Présent(現在)とまだ繋がりを持っている Imparfait(半過去)はその左に、そして、さらに完了した過去の出来事を語っている Passé composé(複合過去)は更に左に位置することができる。
ここまでは、理解できただろうか?単純に、現在に対して、過去形の活用を並べただけである。
Plus-que-parfait(大過去)
では、Plus-que-parfait(大過去)の場合は、時系列のどこに位置するのだろうか?「Plus-que-parfait」や「大過去」という言葉をヒントにすれば、答えは簡単である。
その通り!Plus-que-parfait(大過去)は、Passé composé(複合過去)よりも更に左に、つまり過去に位置するのである。従って、過去に完了した出来事よりも更に過去に起きた出来事について語るための活用なのである。
覚え方は簡単である。「完璧に終了」、すなわち「Parfait」である状態を、Passé composé(複合過去)で語っているため、まだ「Parfait」でない状態を Imparfait(半過去)、「Parfait」よりも更に「Parfait」である状態を Plus-que-parfait(大過去)で表すのである。このポイントさえ理解できれば、あとは然程難しいことではない。
英語が少しわかる方のために例えると、現在完了形(have+過去分詞) = Imparfait(半過去)、過去形(didなど)= Passé composé(複合過去)、過去完了形(had+過去分詞)= Plus-que-parfait(大過去)となる。細かく見れば、多少違いがあるかもしれないが、そこは大目に。
Passé simple(単純過去)と Passé antérieur(前過去)
ちなみに、余談であるが、先ほどの図に、Passé simple(単純過去)と Passé antérieur(前過去)を加えると、以下のようになる。
Passé simple(単純過去)は、動詞の活用は異なるにせよ、Passé composé(複合過去)と入れ替えることができるため、同じ位置に存在する。また、Passé antérieur(前過去)は過去の更に前に完了した出来事について語っているため、Plus-que-parfait(大過去)よりも更に左に位置することになる。
前章の話の繰り返しになるが、Passé simple(単純過去)と Passé antérieur(前過去)は小説などの筆記でしか使わないため、「会話ができるレベルのフランス語を身に着けたい」、「フランスの職場でも通用するフランス語を身に着けたい」という方は、特に集中して学ぶ必要はないとぺぎぃは思う。そのような活用方法も存在するのだと、覚えておけばよいだけである。
どのみち、口頭会話や日常生活では、Passé simple(単純過去)⇒ Passé composé(複合過去)と、Passé antérieur(前過去)⇒ Plus-que-parfait(大過去)とすり替えることができる。
実際に、ぺぎぃもフランスの会社で働いているが、口頭は勿論、メールでもレポートでも Passé simple(単純過去)と Passé antérieur(前過去)を使う率はゼロである。本当に、小説や文学でしか用いない活用である。そもそも、ぺぎぃも含め、ちゃんとPassé simple(単純過去)と Passé antérieur(前過去)が活用できるフランス人はあまりいないのではないか?と思うくらいである。学校の勉強や、作文くらいでしか使った記憶がない。
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Plus-que-parfait(大過去)の使い方
さて、ではいよいよお待ちかね、Plus-que-parfait(大過去)の使い方について、話していこうなのである。
Plus-que-parfait(大過去)の活用
Imparfait(半過去)の時と同じように、詳しい Plus-que-parfait(大過去)の活用方法については、参考書やネット情報、フランス語の授業などに腐るほど説明が載っていると思うため、ぺぎぃがとやかく言うことはしない。
が、飽くまでメモ書き程度に、一般的な動詞の活用方法を以下にまとめて置こう。
avoir | ||
Imparfait | Passé composé | Plus-que-parfait |
j’avais | j’ai eu | j’avais eu |
tu avais | tu as eu | tu avais eu |
il avait | il a eu | il avait eu |
nous avions | nous avons eu | nous avions eu |
vous aviez | vous avez eu | vous aviez eu |
ils avaient | ils ont eu | ils avaient eu |
être | ||
Imparfait | Passé composé | Plus-que-parfait |
j’étais | j’ai été | j’avais été |
tu étais | tu as été | tu avais été |
il était | il a été | il avait été |
nous étions | nous avons été | nous avions été |
vous étiez | vous avez été | vous aviez été |
ils étaient | ils ont été | ils avaient été |
上の表を見てもらえばわかるとおり、簡単に言えば、 Plus-que-parfait(大過去)とは Imparfait(半過去)と Passé composé(複合過去)を足して2で割ったようなものである。従って、avoir と être のImparfait(半過去)と、Passé composé(複合過去)に出てくる各動詞の Participe passé(過去分詞)さえ覚えていれば、何も追加で覚える必要はない。非常に簡単な過去形の活用である。
(例)
動詞 Prendre の Plus-que-parfait(大過去):
Passé composé(複合過去)の活用は j’ai pris であるため、動詞 avoir を Imparfait(半過去)に直し、Plus-que-parfait(大過去)の活用は、j’avais pris, tu avais pris, il avait pris, nous avions pris, vous aviez pris, ils avaient pris となる。動詞 Savoir の Plus-que-parfait(大過去):
Passé composé(複合過去)の活用は j’ai su であるため、動詞 avoir を Imparfait(半過去)に直し、Plus-que-parfait(大過去)の活用は、j’avais su, tu avais su, il avait su, nous avions su, vous aviez su, ils avaient su となる。動詞 Aller の Plus-que-parfait(大過去):
Passé composé(複合過去)の活用は je suis allé であるため、動詞 être を Imparfait(半過去)に直し、Plus-que-parfait(大過去)の活用は、j’étais allé, tu étais allé, il était allé, nous étions allés, vous étiez allés, ils étaient allés となる。(※)初歩的なミスであるが、動詞 avoir を用いた場合の過去分詞は主語の数も性別も取らない。しかし、動詞 être を用いた場合の過去分詞は主語の数と性別を取るため、注意したい。(例:elles avaient voulu
es, elles étaient parties)
活用シーン①:過去の前に起きた出来事
既に説明した通り、Plus-que-parfait(大過去)とは、過去の更に前に起きた出来事について語るときに用いる過去形の活用である。なので、Imparfait(半過去)と同じく、Passé composé(複合過去)と連携させて使うことが非常に多い。
以下の例を見てみよう:
A) Peggy achetait du pain lorsque je l’ai appelé au téléphone. (私が電話をした時、ぺぎぃはパンを買っていた/買っている最中だった。)
⇒ 「最中だった」という未完了な過去であるため、Imparfait(半過去)を用いる。B) Peggy avait (déjà) acheté du pain lorsque je l’ai appelé au téléphone.(私が電話をした時、ぺぎぃは(既に)パンを買っていた。)
⇒ 「既に」完了した出来事であるため、Plus-que-parfait(大過去)を用いる。
A)の文では、「電話をした時」まだぺぎぃはパンを買っている最中だったため、「パンを買う」という行動は未完了である。そのため、Imparfait(半過去)を用いている。
対して、B)の文では「電話をした時」既にぺぎぃはパンを買っていたため、「パンを買う」という行動は「電話をした時」という過去よりも以前に完了していたことになる。そのため、Plus-que-parfait(大過去)を用いているのである。
ま、単純な時系列の問題なのである。
ちなみに、Plus-que-parfait(大過去)の使い方からは少し話がそれてしまうが、教養のため、以下の文はどうだろうか?文法的に問題はないだろうか?少し考えてみてほしい。。。
C) Peggy a acheté du pain lorsque je l’ai appelé au téléphone.(私が電話した時、ぺぎぃはパンを買った。)
答えを言うと、実はC)の文も特に文法的に問題はないのである。ただし、先ほどのA)とB)の文とは、更に時系列が異なっている。
A)の文では、「電話をした時にパンを買っている最中だった」、つまり、未完了ではあれど、「パンを買う」というアクションは既に開始されていたのである。
B)の文でも、「電話をした時に既にパンを買っていた」ので、「電話をした」というアクションの前に「パンを買う」というアクションは既に終了していたことになる。
では、C)の文はというと、「電話をした時にパンを買った」、つまり「電話をした」時と「パンを買った」時というのは、同じ時間に起きたということになる。実際に、そのようなことはめったにないと思うが、要は電話をされる前までは、ぺぎぃはまだ「パンを買う」というアクションを開始しておらず、「電話をされた時」、その時に、電話越しにパン屋さんにパンを注文したのかは知らないが、とにかく「パンを買った」ということになるのである。
活用シーン②:Si + Plus-que-parfait(大過去) + Conditionnel Passé(条件法過去)
「活用シーン②」と格好つけて銘打ったものの、実際には「過去の前に起きた出来事」として、「活用シーン①」と内容は一緒であるが、Si + Plus-que-parfait(大過去) + Conditionnel Passé(条件法過去)というのは、フランス語で非常に頻繁に使われる造りであるため、ここで紹介しておくことにする。
では、Si + Plus-que-parfait(大過去) + Conditionnel Passé(条件法過去)とは一体何なのか?
簡単に言えば、Conditionnel Passé(条件法過去)とは、仮定の話に用いる活用である。それは、ただの空想であったり、後悔であったり、批難であったりと、形さまざまであるが、要は、「もしも○○であったなら、こうなっていただろう/こうしていただろう」という文脈のことである。この、「もしも○○であったなら」という部分に、Plus-que-parfait(大過去)を用い、「こうなっていただろう/こうしていただろう」という部分に、Conditionnel Passé(条件法過去)を用いるのである。
だらだらと説明するよりも、例文を見てもらった方が早いため、以下を見ていただこう:
A) Tu as bien progressé en français. Si j’avais été à ta place, je n’aurais pas pu en faire autant. (君のフランス語はずいぶん上達したな。俺が君の立場であったとしたら、そこまでできなかっただろうよ。)
B) Aujourd’hui, il pleut beaucoup. Si je l’avais su, j’aurais pris mon parapluie. (今日はよく雨が降るな。知っていれば、傘を持ってきたものを。)
おわかりいただけただろうか?
例えばA)の文では、「仮に俺が君の立場であったとしたも」(=仮定)、「そこまでできなかっただろうよ」(=意見)という造りになっている。この「仮定」の部分を Plus-que-parfait(大過去)で示し、「意見」の部分を Conditionnel Passé(条件法過去)で表すのである。
また、B)の文でも、同じように、「仮に(雨が降ることを)知っていたなら」(=仮定)、「傘を持ってきたものを」(=意見)となっているため、「仮定」の部分を Plus-que-parfait(大過去)で示し、「意見」の部分を Conditonnel Passé(条件法過去)で表している。
これは、『何故?』と問われても、ぺぎぃにもわからない。『フランス語の文法を決めた人がそう定めたから』、と答えることしかできない。
なぁに、覚えてしまえば単純である。Si ○○ の文が出てきて、それが仮定の話である場合は、Plus-que-parfait(大過去)と Conditonnel Passé(条件法過去)を用いると覚えておけばよい。
(※)ちなみに、念のためであるが、過去形限定であると補足しておこう。現在形では Si + Plus-que-parfait(大過去) + Conditionnel Passé(条件法過去)ではなく、Si + Imparfait(半過去) + Conditionnel Présent(条件法現在)となる。
今回は飽くまで、過去形についての話であったため、これについての説明はまた別の回にさせていただくことにする。
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どうしても理解できないPQPの使い方があります。
問題集に出ていた一例です。教えていただけますか?
Quand la guerre ( éclater) en 1941, il (être) trop jeune pour être soldat. Il (venir) d’avoir dix ans et (montrer) dès disposition pour la musique. Deux ans plus tard, il (composer) un petit concerts pour violon.
答えは順にa éclaté, était, venait, montrait, ここまではOKです。解らないのが最後の(composer)の部分、回答書にはavait composé とPQPが記入されています。自分の理解では、戦争が勃発した(過去の起点)後の2年後に作曲したので、スッキリはしないものの強いて言うならpassé composé かな?と考えました。しかし答えはPQP、過去の起点よりも時間的には後のはずなのに過去に更に遡った形を表すPQPが正しいという理由がわからないのです。宜しくお願い致します。
迷える子ちゃん、ご質問ありがとうございます。
おそらくこのテキストが伝えたい内容は「そして2年後に、彼はバイオリン向けのコンサートを作曲した」ではなく、「そして2年が経ったころには、彼はバイオリン向けのコンサートを作曲していた」ということだと思います。
つまり、「2年後」にピンポイントでコンサートを作曲したのではなく、1941年に戦争が勃発したときから音楽に才能を発揮し始め、2年をかけて継続的に作曲をし続け、「2年が経過したころ」にようやくコンサートを一つ作曲し終わったということになります。
従って、考え方としては、「戦争が勃発してから2年後」という過去の起点に対し、「それまでにコンサートを完成させていた」と更に過去に遡った形を表現するので、大過去(Plus-que-parfait)を用いることになります。
まぁ、でも、これは問題が悪いかと思います。何が言いたいのか、フランス語の文を読んだだけではニュアンスがつかめないので。
私も同じ問題を出されていたら、普通に「あ、じゃあ1943年に作曲したのだから」と単純過去(Passé simple)にしていました。迷える子ちゃんが書かれている複合過去(Passé composé)でもOKです。
生まれて初めてこういう形で質問させて戴きました。こんなに丁寧に教えてくださるとは、とても感動いたしました!
戦争勃発、10歳になったばかりの少年はその時既に音楽の才能の片鱗を覗かせており、彼はその後の2年という年月をかけて曲を完成させたということで、”過去のとある時点までの動作の継続、または動作の完了を示していることからPQPが用いられたということなのですね。私はこれまで、PQPは、過去のある時点を期に、「更に過去に遡って起きた出来事」を表現する時に用いられ時系列を意識していた為、この問題&回答では時間の向きが逆なのにと何故?と混乱しドツボにはまっておりました。勿論そう言う使い方はあると思いますが、ここでは「過去というタイムフレーム」の中で、二つの出来事が語られ、一方は戦争勃発という過去の出来事(PC)、もう一方はそこを起点に片鱗をみせていた作曲活動が2年にわたって継続され完成に至ったという過去の継続した動作の完了という視点から(PQP)という事なのですね。だとすると、私はまたまたここでもフランス語文法の奥深さを感じぜずにはいられません。もしこの理解で良ければ、私は少なくともPQPについては、もう”迷える子”ではなく、”迷わない子”ちゃんになれたかもしれません。いずれにしても、丁寧なご説明に感謝いたします。有難うございました!
やはりまだ”迷える子”だったようです。再度がご説明文読み返しました。たぶん、今度こそ理解できたかも?です。
1941年の戦争勃発から2年後。Deux ans plus tardsに過去の基点を置き、勃発からそこに至るまでの2年間の過去に遡った動作の継続により完成に至った、故にPQPという事ですね。失礼しました。(でも本当に奥が深いですね)
迷わない子さん、ご返信ありがとうございます。お役に立てたようで、嬉しいです。
その通りです、「1941年の戦争勃発から2年後」というところに過去の基点を置いて、「1941年の戦争勃発からそこに至るまでの2年間」に遡った動作の継続によって2年後の1943年には既にコンサートが完成されていたので大過去(Plus-que-parfait)を用いているのだと思います。
なので、「過去のある時点を基点として、更に過去に遡って起きた(または継続された)出来事」に対して大過去(Plus-que-parfait)を用いるという考え方で合っています。
また、最初の回答で申し上げた通り、今回はやはり問題が悪いと思います。
問題文だけでは、「コンサートを1943年に完成させたのか、それとも1941年から手掛けていて1943年には既に終わっていたのか」のニュアンスが不明だからです。
私でもこの問題を出されていたら、単純過去(Passé simple)で回答していたので、迷えない子さんが初めに回答されていた複合過去(Passé composé)でも間違いではありませんし、むしろ正しいとも思います。
>ぺぎぃは(既に)パンを買っていた。)
>⇒ 「既に」完了した出来事であるため、
>Plus-que-parfait(半過去)を用いる。
大過去の誤植でしょうか
とおりすがり様、コメントありがとうございます。
確かに、大過去の間違いです。直しておきます。