『北斗の拳』の名台詞と聞いて何を思い浮かべるだろうか?
多くの方は、有名な「おまえはもう死んでいる」を思い浮かべたのかもしれない。
しかし、実はフランス語のアニメ版『北斗の拳』で用いられている台詞は、日本語版の格好良い台詞とは全く異なり、まさにギャグ漫画のようなセリフになっている。
- フランス語版『北斗の拳』のアニメ名台詞と和訳【ベスト10】
- 何故このようなおかしな台詞になってしまったのか?
そもそも、フランス語では「H」の発音ができないため、アニメの『北斗の拳(Hokuto no Ken)』は「オクト・ノ・ケン = ケン・オクト」、つまり『Ken du Haut couteau(高級ナイフの拳)』若しくはシンプルに『Ken au couteau(ナイフの拳)』ということになっている。
まさにギャグ以外の何物でもない!!
タイトルからしてツッコミどころ満載のアニメなので、本記事では、フランス語版の『北斗の拳』で用いられているツッコミどころのある名台詞のベスト10を見てみることにしよう。
フランス語版『北斗の拳』のアニメ名台詞【ベスト10】
それでは、フランス語のアニメ版『北斗の拳』に登場する面白台詞を個人的な主観から、10位から1位まで紹介していこう。
10位:「顔面パンチ」と「サイズ付き飛び蹴り」
面白台詞の第10位は、ケンシロウとシンとの決戦にて交換される必殺技の名称である。
南斗聖拳の使い手シンは、『北斗の拳』の主人公ケンシロウの胸に七つの傷をつけた男であり、彼にとっては最初の強敵(とも)。
最終決戦では、確実に真剣な勝負になるはずなのだが、フランス語のアニメ版『北斗の拳』では以下のような技の名前が叫ばれている:
シン:「Attaque Nanto coup de poing dans la figure !」(南斗聖拳、「顔面パンチ」!)
ケンシロウ:「Attaque Hokuto coup de pied volant avec pointure !」(北斗神拳、「サイズ付き飛び蹴り」)
いやいや、ツッコミどころありすぎだろ!!(笑)
「顔面パンチ」なんて、適当すぎるにもほどがある。『アンパンマン』の「アンパンチ」の方がまだ必殺技っぽい名前になっているではないか!
それに、単なる「飛び蹴り」ではなく、「サイズ付き」って何?靴のサイズによって威力が変わってくるとか?設定がまるで分らないんだが…(笑)
…とまぁ、こんな感じで、フランス語のアニメ版『北斗の拳』では、原作を完全に無視したフリースタイルの台詞があちこちに使われているのである。
9位:「バイソンのコート」と「パン切りナイフ」の奥義
面白台詞の第9位は、ナレーションによる「北斗神拳」と「南斗聖拳」の説明である。
一応簡単に説明すると、「北斗神拳」と「南斗聖拳」とは『北斗の拳』の作中に登場する暗殺拳法のことである。ケンシロウ等が用いる「陰」の北斗神拳に対し、「陽」の拳法「南斗聖拳」が存在する。
しかし、
フランス語のアニメ版『北斗の拳』から抜粋したそれぞれの流派の説明がこちら:
南斗聖拳:「Les 108 groupes d’élite qui composaient les forces armées de l’école Nanto … euh celle de bison.」(108のエリート流派によって構成されるナント…え~っと、バイソンの毛皮製)
北斗神拳:「Les membres de l’école au couteau à pain, étaient sous les ordres directs de l’empereur.」(パン切りナイフの流派の門下生は、天皇直々の命に従っていた)
…一体何の話だろうか?
実は、これは、「北斗神拳」と「南斗聖拳」をフランス語読みにしたときのダジャレが用いられている。
北斗神拳について
「北斗神拳」の「北斗(ホクト)」はフランス語で「Hokuto」。
しかし、彼らは「H」の発音ができないので、読み方は「オクト」、つまり「Haut couteau(オ・クト)= 高級ナイフ」の流派という設定になっているのだ。
「パン切りナイフ」以外にも、「北斗神拳」の流派には以下の例が挙げられる:
- Haut couteau de cuisine(オ・クト・ド・キュイジーヌ)
⇒ 高級台所包丁 - Haut couteau à viande(オ・クト・ア・ヴィアンド)
⇒ 高級肉切り包丁 - Haut couteau à huîtres(オ・クト・ア・ユイートル)
⇒ 高級牡蠣用ナイフ - Haut couteau suisse(オ・クト・ア・スイス)
⇒ 高級万能ナイフ - Haut couteau très aiguisé(オ・クト・トレ・エーギュイゼ)
⇒ よく研がれた高級ナイフ - Haut couteau à steaks(オ・クト・ア・ステーク)
⇒ ステーキ用高級ナイフ - Haut couteau à gigots(オ・クト・ア・ジゴ)
⇒ 羊肉用高級ナイフ - Haut couteau multifonction(オ・クト・ミュルティフォンクション)
⇒ 高級万能ナイフ(その2)
南斗聖拳について
「南斗聖拳」は更にこじつけだが、「南斗(ナント)」をフランス語に直すと、発音が近い言葉に「Manteau(マント)」がある。これは、日本語でいう「マント」の意味の他にも、「コート」のことを意味する。
つまり、ナレーションでは、「南斗聖拳」のことを「バイソンの毛皮のコート」と紹介しているのである。
他にも作中に出てくる例として:
- Nanto à fourrure(ナント・ア・フリュー)
⇒ 毛皮のコート - Nanto de lapin(ナント・ド・ラパン)
⇒ ウサギの毛皮のコート - Nanto de tigre(ナント・ド・ティーグル)
⇒ トラの毛皮のコート - Nanto qu’on laisse au vestiaire(ナント・コン・レス・オ・ヴェスティエール)
⇒ 更衣室に預けるコート
が挙げられる。見ての通り、大分ふざけた流派の名前になっている。
8位:「お前の流派はホクトなのか?ホクターなのか?」
続いて、面白台詞の第8位。
こちらは、作中のどのキャラクターがどのタイミングで発言していた台詞なのか思い出すことができなかったが、今まで通り「ダジャレが込められたギャグ台詞」となっている。
「Tu es de l’école des haut couteaux ou tard ?」(お前の流派はホク「ト」なのかホク「ター」なのか?)
「Hum plutôt tard…」(ふむ、どちらかと言えば「ター」だな…)
フランス語を知らない人からすれば「???」と意味がわからないことだろう。
実はフランス語では、形容詞の「早い」のことを「Tôt(ト)」、形容詞の「遅い」のことを「Tard(ター)」というのである。
つまり、先ほどの台詞では、ダジャレを交えて「お前の流派は「北斗(=早いホク)」なのか?それとも「ホクター(=遅いホク)」なのか?」と聞いていることになるのだ。
とことんふざけたアニメである!
7位:「Tic Tac Toki(ティク・タク・トキ)」
続いて、面白台詞の第7位は、作中のトキというキャラクターが牢獄にいる際に、ウィグル獄長が部下と交わす台詞である。
本来なら、登場人物(しかもかなり重要なキャラクター)が牢獄にいて、そのボスである獄長が発言をする際には、かなり真面目な感じになるのが当たり前のはずなのだが、フランス語のアニメ版『北斗の拳』では容赦なくギャグ台詞に準じている。
兵士:「C’est Toki Excellence!」(トキです、獄長!)
ウィグル獄長:「Et qu’est-ce qu’il a fait Toki?」(で、トキが何をしたって?)
兵士:「Tic Tac Toki」(ティク・タク・トキ)
ウィグル獄長:「Quoi!? Il a fait tic tac Toki? Bizarre!」(何!?トキがティク・タクしたと?妙だな)
これは、特に深い意味がなく、「トキ」という名前に対してただ単に「Tic Tac Toc(ティク・タク・トク)」と時計の針のような音を重ね合わせたような台詞を吐いているだけである。
・・・は!?それだけ?と思った方も多いだろう。しかし、それだけである。まさに無駄な台詞とはこのようなもののことを言う。
「Faire tic tac(ティク・タクする)」とはフランス語で多くの場合は「時計の針などが動くを音」のことを示すが、他にも「男性と女性が性向をする」という意味でも用いられることがあったりと、牢獄で一人閉じ込められているトキとは全くかけ離れている言葉である。
6位:「やつはキャベツの中だ」
シュウとは、『北斗の拳』に登場する盲目の南斗聖拳の使い手。面白台詞の第6位は彼の死に対して向けられるものである。
えっ!?死亡シーンもギャグにするの?
はい、その通り。フランス語のアニメ版は例え主要人物の死亡シーンであっても容赦しない。
その時に発せられる台詞がこちら:
敵キャラ:「Il est dans les choux, Shu.」(シュウはもうシュー(=キャベツ)の中だ)
…おわかりか?
そう、またダジャレである。
おいおいおい、主要人物の一人が死亡したシーンで一体なんてことをするんだ!という声が聞こえてきそうだが、フランス人はそんなものを気にしたりはしない。
「être dans les choux(キャベツの中にいる)」というのは、フランス語で「もうだめだ/ついていけていない」という意味。今回は「choux(シュー)=キャベツ」という単語の発音がシュウという名前と同じだったため、使用されたと思われる。
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5位:「一体どうやった?」「言えない」
面白台詞の第5位は、10位でも紹介したケンシロウとシンとの因縁の最終決戦の際に交わされる台詞である。
ケンシロウが「北斗神拳」を繰り出す中で、放たれた台詞がこちら:
ケンシロウ:「Attaque du couteau sinueux et torturé!」(波打って歪んだナイフの攻撃!)
シン:「Comment à tu fait?」(一体どうやった?)
ケンシロウ:「Je ne peux pas te le dire.」(言えない)
…
……
…もはやツッコミどころが多すぎて、何から始めればよいのかわからない。
「波打って歪んだナイフの攻撃」という技名に対しては、9位の段階ですでに言った通りなので、もはや何も言うまい。当然ケンシロウはナイフなど使っていない。
しかし、それに対するシンの台詞「一体どうやった?」というのは、まるで手品の種でも聞いているような台詞であり、更にそれに対するケンシロウの返答「言えない」はまさにマジシャンの返答そのものである。
つまり、まさにギャグ。とても因縁の対決とは思えないバトルシーンである。
4位:「奥義『王室のベンチ』は中国で生まれた」
続いて面白台詞の第4位、こちらは南斗聖拳の使い手であり、「南斗水鳥拳」の正統伝承者であるレイの技の紹介の時に使われる台詞である。
La technique de combat, “la banquette royale” est née en Chine, lorsque la mousse tache.(戦闘奥義『王室のベンチ』は泡が染みになった頃、中国で発祥した)
これは、フランス語が分からない方には少し難しいかもしれない。
まずは、一つ目のツッコミどころ:『王室のベンチ』とは何ぞや?
これはおそらく、第9位で説明したように「北斗神拳」が「高級ナイフの奥義」、「南斗聖拳」が「毛皮のコートの奥義」であるように、「南斗水鳥拳」のことを『王室のベンチ』の奥義としているのだと思われる。
まぁ、いつも通り何の脈略もない、適当な設定である。
続いて、「泡が染みになったころ」という部分が気になった方が多いと思われる。
これは、実はフランスのジョークの一つで、「口ひげ」という意味の「Moustache(ムッスタッシュ)」 を二つの言葉に分解して「Mousse(ムース)=泡」という名詞と「tache(タッシュ)=染みを付ける」という動詞にしたものである。
つまり、特に深い意味があるわけではないが、とりあえず「lorsque la mousse tache(泡が染みになった頃)」というだけで、フランス語に長けている人には「lorque la Moustache(口髭の時)」と聞こえて、面白可笑しいということである。どちらにしても脈略は全くない。
3位:「お前の胸のあらゆる敏感な点を打った」
面白台詞の第3位、またもやケンシロウとシンの因縁の対決シーンからである。
ケンシロウがシンを圧倒し、経絡秘孔を突いたときに交わされる会話がこちら:
ケンシロウ:「J’ai touché tous les points vulnérable de ta poitrine.」(お前の胸のあらゆる敏感な点を打った)
シン:「Tous?」(全て?)
ケンシロウ:「Ils vont exploser les uns après les autres.」(一つ一つ順に破裂していくだろう)
シン:「Oh non pas les “points”! Pas les “points”!」(いやだ、「点」はやめて!「点」はやめて!)
…これは、明らかに胸にある特殊な2点のことを指しているような気がするのは、ぺぎぃだけだろうか?
いや、そもそも主人公ケンシロウの胸に7つの傷をつけた、最大の好敵手だった男が「いやだ、点はやめて!点はやめて!」と叫ぶ姿はギャグ以外の何物でもない。
好敵手同士の最終決戦と言うことで、今回はこの台詞を3位に選んだ。
2位:「まだ手すりを完成させていないんだ!」
面白台詞の第2位、こちらは『北斗の拳』のファンの方からは絶対に叩かれそうな台詞である。
因みに、ユリアは物語の主人公ケンシロウの婚約者だったが、シンに強奪されてしまう。そして、自分のために略奪と殺戮を繰り返すシンに対し、自分が死にさえすればすべては終わると決心して居城から身を投げるシーンがあるのだが、それを見たシンが発する台詞がこちら:
シン(ユリアが飛び降りる直前):「Non Julia, je n’avais pas fini de construire la rambarde!」(よせユリア、まだ手すりを完成させていないんだ!)
シン(ユリアが飛び降りた直後):「Appelez-moi l’architecte!」(建築家を連れてこい!)
原作を知っている方は「えっ…!?」と驚く方が多いと思うが、そうなのだ。
ユリアは何も自殺しようとして飛び降りたのではない。ノンノン、フランス語版のアニメでは、彼女はただ単に手すりにもたれかかろうとしたときに、誤って落ちてしまっただけなのだ。
しかも、ユリアを愛していたはずのシンも、別に落ちたユリアに興味がなく、直ちに建築家を呼んで文句を言ったり、修理をしてもらおうと考えている。
そう、これがフランス語のアニメ版の『北斗の拳』である。
1位:「時代はゆで卵のように厳しい」
そしていよいよ、面白台詞の第1位、こちらはケンシロウの独り言である。個人的には一番好きな台詞:
ケンシロウ:「Décidément, les temps comme les œufs sont durs. Et la bêtise n’a pas de limite.」(やはり時代はゆで卵のように厳しい。そして馬鹿さには限度がない。)
いやぁ~、「馬鹿さに限度がない」のはお前だろうが!と思わずツッコミを入れたくなってしまうような決め台詞。これこそ、名言中の名言でないだろうか?
一応簡単に解説をしておくと、フランス語では「時代が厳しい」というのを「les temps sont durs(レ・トン・ソン・デュ―)=時は固い」と言う。「dur(固い)」とは英語の「hard」と同じような意味だと考えてよい。
また、「ゆで卵」のことも「un œuf dur(アン・ヌフ・デュ―)=固いたまご」と形容詞の「固い」を用いて表現する。
つまり、ここでは、「時代が固い(=厳しい)」というのに対して、「まるでゆで卵のように」というダジャレ要素を追加しているのである。
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何故このような台詞になってしまったのか?

さて、では一体何故かの有名な『北斗の拳』のフランス語アニメ版が原作を無視したギャグマンガになってしまったのだろうか?
ここでは、その理由について簡単に解説していこう。
暴力的な表現が多すぎる作品
1980年代のフランスのTF1チャンネルで放映された『北斗の拳』は、実はそのあまりにも暴力的な映像と表現のせいで、すぐさま規制によるストップがかかってしまったのである。
確かに、表面上の大まかな内容としては:「核戦争を背景に、血に飢えた野蛮人などを次々と拳で対峙していく格闘家ケンシロウの物語」なので、子供に見せる番組としてはあまりにも野蛮すぎるという意見が多いのは納得がいく。
そのため、『北斗の拳』を番組として放映し続けるためには、その内容をガラッと変える必要があったとのこと。日本語版の台詞やテキストを完全に無視して、だじゃれやアドリブの自由な表現を入れまくることにより、規制から逃れることに成功したのである。
台詞を変えたことによってファンが増えた
当時主人公のケンシロウの声を担当していた声優のフィリップ・オグズによると、台詞を180度変えたことにより、『北斗の拳』は子供たちに大ヒットしたとのこと。
当初は一日に2話ずつの声優の仕事も、たちまちノンストップで行われるようになり、ほとんど基本的なテキスト以外はその場でアドリブで適当にアレンジしていくようになったようである。
そのお陰か、現在でも『北斗の拳』はその奇妙かつ可笑しな台詞が元となって多くのファンが根付いている。
フランス語を勉強している皆様も興味があれば、是非ともネタとして見てみるのをおすすめする。
(参考:https://www.vice.com/fr/article/znawj9/je-faisais-les-doublages-dans-ken-le-survivant-294)
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