フランス語を勉強中の日本人の方が頭を悩ませるフレーズの一つに「Si tu veux」というものがある。
これは、このまま直訳してしまうと「あなたが(そう)したいなら」となり、あたかも「Tu」で表される相手の意向に委ねるような責任逃れのフレーズと思われがちだが、必ずしもそうではない。
この記事では、この「Si tu veux」の意味合いやニュアンスについて解説していくと同時に、間違った解釈をしないためにはどのように返事をすればよいのかも見ていくとしよう。
- 「Si tu veux」の意味と使い方
- 「Si tu veux」に対して何と返せばよいか?
この「Si tu veux」はフランス人が日常的に使っているフレーズの一つである。
勿論、中にはぺぎぃのように、フランス人でもこのフレーズがあまり好きではないので使っていないという人も存在するが、おそらくフランスに旅行や留学、駐在で行く日本人の9割が確実に出会うフレーズだろう。
しかし、難しいのは、このフレーズが意味するのが「Si tu veux bien」なのか、それとも「Si tu désires」なのかと言うところ。
こればかりは、その時のシチュエーションや相手の意向によるので、一概に断言することはできないが、念のため今回の記事ではこの「Si tu veux」の二つの意味合いについて説明してくとしよう。
目次
フランス語の「Si tu veux」の意味と使い方
フランス語の「Si tu veux」には大きく分けて二つの異なる意味合いがある:
・「Si tu veux bien」の略の場合
・「Si tu désires」の類義語の場合
この章ではこれらの二つの異なる意味と使い分け方について解説していこう。
1-1. 「Si tu veux」=「Si tu veux bien」の略
解説
「Si tu veux」の一つ目の使い方は「Si tu veux bien」の略。これは「よろしければ」と相手に軽い許可を求める言い回し。
まず、いきなりだが、この「Si tu veux」というフレーズを勘違いしている日本人や外国人の方が多い。
この「Si tu veux」は、直訳すると「あなたが(そう)したいのなら」や「あなたが欲しいのなら」となってしまうので、あたかも自分は責任逃れをして「あなたがやりたいから私はそれに従っているんだ」という意味に思われがちだが、実はそうではない。…というか、たまにそういうケースもがるが100%という訳ではない。
この表現は「Si tu veux bien」、つまり「あなたがよければ」や「あなたに異議がなければ」という意味で、「自分は○○がしたいのだけど、良いですか?」と相手に軽い許可を求めるときに使うフレーズである。
英語に例えるなら「Do you mind (if)」のフレーズに当てはまるだろうか?
例えば、
Si tu veux, on peut aller au cinéma ensemble? (よかったら、一緒に映画館に行かない?)
Si tu veux bien, on peut aller au cinéma ensemble. (君がよかったら、一緒に映画館に行こうよ)
これは「あなたが行きたいなら、一緒に行ってやっても良いよ」という自分勝手な表現ではなく、「あなたが良ければ / 迷惑でなければ、一緒に映画館に行かないかい?」という意味に近い。
まぁしかし、だからと言って特別丁寧な表現という訳でもなく、明らかに嫌がりそうな人や初対面の人に「Si tu veux (よかったら)」を用いるのは流石に馴れ馴れしすぎて失礼になったりもする。
これは、基本的には仲の良い友達同士や知り合いの間で使われる、若干カジュアルなフレーズである。
「Si tu veux」=「Si tu veux bien」を用いた例文
1. Si tu veux, on peut se donner rendez-vous à la gare vers 16 heures. (君の都合がよければ、16時頃に駅で待ち合わせにしよう)
⇒ 提案であって、時間や場所に問題があれば「Est-ce que ○○ ça le ferait?」と聞き返しても全く問題がなく、むしろ相手にとってもありがたいことが多い。
2. Vous pouvez mettre votre valise dans le coffre si vous voulez. (荷物をトランクの中に入れても良いですよ)
⇒ これも提案であって、「貴方が望んでいるので~」ではなく「よろしければ~」という意味。
3. Je peux te porter ton sac si tu veux. (良ければ、リュックを持ってあげようか?)
⇒ 疑問形にはなっていないものの、質問に近い意味合い。
4. Si Peggy veut bien, on peut tous aller faire la fête chez lui dimanche. (ぺぎぃが問題なければ、みんなで日曜日彼の家に騒ぎ(遊び)に行こうぜ!)
⇒ これは「ぺぎぃが困らないかどうか確認したうえで」という意味。
1-2. 「Si tu veux」=「Si tu désires」の意味
解説
「Si tu veux」の二つ目の使い方は「Si tu désires」の類義語として、「あなたが望むなら」と相手の希望に従う言い回し。
1-1.で紹介したの意味合いを知らない人が真っ先に思うだろう「Si tu veux」の意味がこちらの「あなた(そう)がしたいなら」や「あなたが欲しいなら」である。
英語に例えるなら「If you want」や「As you wish」となるだろうか?
難しいのは、これは文脈や言葉のイントネーションで判断するしかないというところ。
例えば、先ほどの:
Si tu veux, on peut aller au cinéma ensemble. (よかったら、一緒に映画館に行こうよ)
これなら「あなたが望むのなら」ではなく「あなたがよろしければ」という意味だが、
– J’ai envie d’aller voir ce film. (この映画を観に行きたい)
– Ben si tu veux, on peut aller le voir ensemble. (まぁ、じゃあ一緒に観に行く?)
こちらの場合には「君がよければ」ではなく、「君がそうしたいのなら~」という意味に近くなる。
また、今回は少し大げさに目立たせるために「Ben」を文頭に入れてみたが、「Ben」がない場合にも「君がそうしたいなら~」というニュアンスになる。
基本的に:
- 単体で用いられた「Si tu veux」
- 「やれやれ」と少し投げやりな感じで発された「Si tu veux」
- 自分が提案をしたり、質問をしたときに返ってきた「Si tu veux」
大体これらの「Si tu veux」が「あなたが望むなら」を意味する「Si tu veux」である。
「Si tu veux」=「Si tu désires」を用いた例文
1. – Est-ce que tu veux bien m’aider à repeindre la maison? (家のペンキを塗り直すのを手伝ってくれないか?)
– Oui, si tu veux. (ええ、いいですよ)
⇒ 誰かに提案をされたり、何か頼みごとをされたときに「特に異論はない」という意味で「Si tu veux」と返答することができる。イントネーションによって「いいよ!」や「しょうがないなぁ…」と解釈することもできる。
2. Pourrais-je t’emprunter ton fer à repasser s’il te plaît? (アイロンを借りても良いかしら?)
– Oui, si tu veux. (ええ、どうぞ)
⇒ 「Oui, bien sûr」と返されたら「ええ、もちろん」の意味。「Oui, si tu veux」と返されたら「ああ、別にいいよ」のような意味合い。特に喜んで貸すわけでもないが、不満も特に感じていない、ニュートラルな言い回し。
3. On peut aller à l’intérieur si tu veux. (中に入ってもいいよ?)
⇒ これは1-1.の「よければ」の意味で使われることもあるが、例えばショーウィンドウに飾られたきれいな服を見ていたとして、それに気づいた連れの人が「行きたかったら、お店の中に入って見てきてもいいよ?」と提案してくれるパターン。
1-3. 少し特殊な「Si tu veux」
最後に、少しおまけで、ちょっとだけ特殊な使い方をする「Si tu veux」について紹介する。
これはよく、何かわからないことがあって人に尋ねたときに、「Si tu veux…」と用いられるフレーズである。
実際のところ、この言葉が何を意味するのかはぺぎぃにも良くわかっていないが、おそらく「Si tu veux bien comprendre」や「Si tu veux bien accepter」の略でないかと考えている。
例えば:
Je ne comprends pas ce que veux dire le mot “Kawaïi” en japonais. Est-ce que tu pourrais m’expliquer? (「かわいい」という日本語の単語の意味がわからないのですが、教えていただけますか?)
Oui bien sûr! “Kawaïi” est un mot très fréquemment utilisé en japonais. Si tu veux, c’est un genre d’expression pour désigner quelque chose de “mignon”. (ええ、もちろん!「かわいい」は日本語でとても頻繁に用いられる言葉です。何か「Mignon」な物を表すときに使う表現だと言えばいいかな?)
このような感じで、ここで使われている「Si tu veux」はほとんどただの繋ぎの言葉として用いられるが、厳密に言えば1-1.で解説した「Si tu veux bien」の意味に若干近くなるとも言える。
簡単に言えば、「こんなざっくりとした説明でよろしければ…」みたいな感じだろうか?
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「Si tu veux」と言われたときの返事は?
この章では、フランス人に「Si tu veux」と言われたときにどう返事すればよいのかについて見ていくとしよう。
まぁ、これは何も「絶対このように返事しないと死ぬ!」みたいな大げさな話ではないが、「Si tu veux」は今まで説明してきたように:
- 「よければ/よろしければ」
- 「あなたが(そう)望むのなら」
と大きく二つのパターンが存在するので、特にフランス語初心者の場合には「どちらの意味で言われているのか?」が判断しにくいことも否めない。
そのため、「Si tu veux ○○?」や「○○, si tu veux?」と言われたときの回答方法を簡単に紹介してみよう。
2-1. OKなら「Oui, d’accord」や「Oui, ça ne me dérange pas」
まずは、相手の提案を肯定する場合のフレーズ。
この際には「Oui, d’accord」や「Oui, ça ne me dérange pas」と返事すれば、仮に相手が「~ si tu veux」のフレーズを用いてきたとしても、間違いなく「自分が望んでいるわけではない」ということが相手に伝わるだろう。
– On peut aller au cinéma ensemble si tu veux. (良ければ、一緒に映画館に行かないかい?)
– Oui, d’accord. (はい、いいですよ)
⇒ 「D’accord」というフレーズは同意の意味を持っているため、仮に相手が勘違いをして「君が望むなら、一緒に映画館に行ってあげてもいいよ?」と聞いてきたとしても、「D’accord」を用いることによって「相手の意向に従っているのはこちら側ですよ」ということをやんわりと伝えることができる。
– On peut aller boire un café si tu veux. (良ければ、コーヒーでも飲みにいかないか?)
– Oui, ça ne me dérange pas. (はい、特に問題ありませんよ)
⇒ 「D’accord」よりも更に強めのフレーズ。「自分にとって問題はない」という意味なので、この表現を使えば明らかに「コーヒーを飲みたい意思はあなたにあるのであって、私から望んだわけではない」というニュアンスを伝えることができる。ただし、釘を刺すような少し強めの表現なので、多用しすぎないように注意。
– On peut faire une pause si tu veux. (すこし休もうか?)
– Oui, si tu veux. (はい、いいですよ)
⇒ 裏技、「Si tu veux」返し。仮に相手が「君が望むなら、少し休むかい?」という意味合いで聞いてきていたとしても「Oui, si tu veux」と返すことによって、逆に「あなたが望むのならいいですよ」と、提案を受け入れながらも「自分は特に望んでいるわけではない」と明確にすることができる。「Comme tu veux」でもOK。
2-2. 嫌なら「Non, je n’ai pas envie」
続いて、相手の提案を否定する場合のフレーズ。
ただの「Non」だけでは、仮に相手が「あなたが望むのなら~」という意味で勘違いして「~ si tu veux」のフレーズを用いてきた場合、結局自分が何を望んでいるのかを理解させることができないため、「Non, je n’ai pas envie」と自分の意思を表す言葉を付け加えるのをおすすめする。
ただし、相手が「よければ~」の優しい提案をしてきている場合には、かなり強めの否定になってしまうため、明らかにこいつは「si tu veux」「si tu veux」としつこいなぁという相手専用のフレーズとした方がよいだろう。
– On peut aller au cinéma ensemble si tu veux. (良ければ、一緒に映画館に行かないかい?)
– Non, je n’a pas envie. (嫌です)
⇒ 本当にキッパリと断る言い回しなので、使い方には少し注意。ただし、フランス人は「空気を読む」ことが苦手だったりするので、本当に嫌な場合には曖昧な返事は避けて「いいえ、私にはその意思がありません」とはっきりとしておくのが後々変な尾ひれも続かず、良いと思う。
– On peut aller boire un café si tu veux. (良ければ、コーヒーでも飲みにいかないか?)
– Non, c’est très gentil, mais je n’ai pas envie. (ええ、ありがとう、でも飲みたくありません)
⇒ これも断りのフレーズなので、かなり刺々しく感じるかもしれないが、行きたくもないコーヒーに勝手に誘ってくる相手が悪く、「コーヒーを飲みたくない」&「私が望んでいるわけではない」の両方を伝えることができるフレーズである。一応「C’est gentil」を付け加えることによって、ワンクッション入れてあげているので、まだ優しいのではないだろうか。
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