今までの記事「その⑪:不定冠詞 un/une と 定冠詞 le/la の使い分け方」やその⑫: 複数形冠詞 des、les、de の使い分け方では、不定冠詞 un/une/des と定冠詞 le/la/les の使い分け方について説明してきた。また、間接他動詞を用いた際に、前置詞 de + 不定冠詞 des = 冠詞 de となることや、前置詞 de + 定冠詞 les = 冠詞 des となることについて解説してきた。
今回の記事では、Complément du nom(名詞補語)の場合の前置詞+冠詞について語っていこうと思う。
https://onsenpeggy.com/grammaire-francaise-avec-peggy/
目次
Complément du nom(名詞補語)とは何か?
1. Complément du nom(名詞補語)
まずは、気になった方も多いかと思うが、そもそもComplément du nom(名詞補語)とは何だろうか?
Complément d’objet(目的補語)というものが存在するように、世の中にはComplément du nom(名詞補語)というものも存在する。これは、例えば「ぺぎぃのくちばし」と言ったときの「ぺぎぃの」の部分に相応する。
La voiture de Peggy est rouge. (ぺぎぃの車は赤い。)
=> 「de Peggy」というのは、名詞「la voiture」の補語である。
Il est bientôt l’heure du tour de France. (もうすぐツール・ド・フランスの時間です。)
=> 「du tour」は「l’heure」の名詞補語であり、「de France」は「tour」の名詞補語である。
ちなみに、名詞補語を用いる文法のことを、Génitif(属格)ともいうらしい。
2. 特殊性
では、Complément du nom(名詞補語)の場合の前置詞と冠詞にはどのような特徴が見られるのか?
例えば、皆さんは Langue de chat(ラング・ド・シャ)というお菓子をご存じだろうか?「白い恋人」でも販売しているあの猫の舌のようにざらざらしたお菓子である。日本語でも「ラング・ド・シャ」として知られているので、多少は馴染みのある方もいるだろう。
ここで、不定冠詞や定冠詞についてのぺぎぃのフランス語講座(こちらやあちら)をお読みになった皆様方はふと疑問に思ったことはないだろうか?『いったいなぜ、langue de chat は langue d’un chat でもなく、langue du chat でもないのだろうか?』『ここでの chat は総称としての猫なので、通常は不定冠詞 un でも定冠詞 le でもよいはず。。。』と。
その通り、langue de chat の中の猫は総称なので、今までの説明通りなら、不定冠詞や定冠詞を用いるはずなのである。しかし、今回は総称でありながら、「de chat」と「langue」の名詞補語でもあるため、またもやフランス語おなじみの特殊変換が行われるのである。
本日はこの名詞補語の場合の前置詞 de + 冠詞 un/une/le/la について解説していくとしよう。
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Complément du nom(名詞補語)の前置詞と冠詞
名詞補語の前置詞 de と冠詞 un/une/le/la については、不定冠詞と定冠詞の使い分け方で説明した時のように、「個体」と「総称」に分別して説明していくとする。
1. 個体の場合
ここで指す「個体」というのは、一般的若しくは全体としてとらえられた物事ではなく、個々の独立した物事として扱われたもののことを指す。例えば、「猫」の場合は、「動物としての猫」ではなく、「そこを歩いている猫」または「特定されていない一匹/数匹の猫」というものを「個体」として扱うものとする。
個体の場合は、名詞補語として用いられた名詞の冠詞は基本的に特殊変換することはない。したがって、前置詞 de + 冠詞 un/une/le/la + 名詞 の構図が成り立つ。唯一変化するとすれば、de + le = du と de + les = des となることぐらいである。
Je dois aller réparer le toit de la maison. (家の屋根を修理しに行かなければ。)
=> 「la maison」は「le toit」の名詞補語。これは別に世の中すべての家について話しているわけではなく、一軒の家について話しているため、個体として扱われ、前置詞 de + 定冠詞 la = de la となる。
Voici le blog du pingouin qui s’appelle Peggy. (これが、ぺぎぃという名のペンギンのブログです。)
=> 「le pingouin qui s’appelle Peggy」は「le blog」の名詞補語。上と同じく個体であるため、前置詞 de + 定冠詞 le = du となる。
Ce gâteau est l’oeuvre d’un célèbre pâtissier. (このケーキは有名なパティシエの作品です。)
=> 「un célèbre pâtissier」は「l’oeuvre」の名詞補語である。今回も、世の中すべてのパティシエではなく、「一人の~」と個体について話しているため、前置詞 de + 不定冠詞 un = d’un となる。
ここで一つだけ注意してほしいのは、名詞補語の前置詞 de + 定冠詞 le/la/les の形を部分冠詞と勘違いしないことである。
部分冠詞については、別途記事で説明していくことにしよう。
2. 総称の場合
ここでいう「総称」というのは、例えば「犬」の場合、一般的な意味での「犬」もしくは「世の中すべての犬」というものを指すものとする。
総称の場合は、名詞補語として用いられた名詞の冠詞は基本的に省かれる。つまり、前置詞 de + 冠詞 un/une/le/la + 名詞 ではなく、直接 前置詞 de + 名詞となるのである。以下の例を見てみよう:
Pegiko a un cours de français tous les matins. (ぺぎこは毎朝フランス語の授業がある。)
=> 「le français」は「un cours」の名詞補語であるが、一般的な言語としてのフランス語について話しているため、定冠詞 le は省かれ、un cours + 前置詞 de + 名詞 français となる。
Il y a beaucoup de soleil aujourd’hui, je te conseille de prendre tes lunettes de soleil. (今日は日差しが強いため、サングラスを取ることをお勧めする。)
=> 「le soleil」は「tes lunettes」の名詞補語であるが、今回は「あの太陽」と特定されたものについて話してるわけではなく、飽くまで「太陽」と総称で話しているため、定冠詞が省かれ、tes lunettes + 前置詞 de + 名詞 soleil となる。
La salle de cinéma était pleine. (映画館の部屋は満席でした。)
=> 上に同じく、「le cinéma」は「la salle」の名詞補語。特定の映画館について話したいときは「la salle du cinéma」と言っても全く問題ないのであるが、今回はどの映画館かを強調しているわけではなく、飽くまで「映画館の部屋」と総称として話しているため、定冠詞 le を省いてもよい。
少しややこしいかもしれないが、覚え方としては、「○○のタイプ」「○○向けの/○○用の」として名詞補語を用いる場合には、冠詞を省いてよいと考えておけばよい。
例えば、先ほどの例だと:
=> un cours de français = 授業のタイプ(フランス語向けの授業)
=> tes lunettes de soleil = 眼鏡のタイプ(太陽向けの眼鏡)
=> la salle de cinéma = 部屋のタイプ(映画館向けの部屋)
と考えてみるとわかりやすい。
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練習問題
前置詞+冠詞、または前置詞のみを用いて穴を埋めよ
1. Je suis à la plage pour profiter de la chaleur ___ été. (夏の暖かさを堪能するため、ビーチに来ている。)
2. Est-ce normal que la boîte ___ chocolats soit vide? (チョコレートの箱が空なのはおかしくないですか?)
3. Connais-tu le numéro ___ téléphone de Peggy? (ぺぎぃの電話番号を知っているかい?)
4. Dans la voiture, la ceinture ___ sécurité est obligatoire. (車内では、シートベルトは必須です。
5. Tous les ans, il y a la fête ___ lumières au mois de décembre à Lyon. (毎年、12月にリヨンでは光の祭典が行われます。)
6. Peggy est en train de repeindre le mur ___ maison. (ぺぎぃは家の壁を塗りなおしている。)
7. Il y a beaucoup de crottes ___ chien dans la rue. (街中に犬の糞がとても多い。)
8. Veux-tu venir avec moi à la salle ___ sport? (私と一緒にスポーツジムに行きませんか?)
9. Tiens? Est-ce que cela ne serait pas les clefs ___ voiture par hasard? (あれ?これはもしかして、車の鍵ではないか?)
10. As-tu pris tes clefs ___ voiture? Nous allons bientôt partir! (車の鍵は持ったかい?もうすぐ出発するよ!)
解答&解説
前置詞+冠詞、または前置詞のみを用いて穴を埋めよ
1. Je suis à la plage pour profiter de la chaleur de l’été. (夏の暖かさを堪能するため、ビーチに来ている。)
2. Est-ce normal que la boîte de chocolats soit vide? (チョコレートの箱が空なのはおかしくないですか?)
3. Connais-tu le numéro de téléphone de Peggy? (ぺぎぃの電話番号を知っているかい?)
4. Dans la voiture, la ceinture de sécurité est obligatoire. (車内では、シートベルトは必須です。
5. Tous les ans, il y a la fête des lumières au mois de décembre à Lyon. (毎年、12月にリヨンでは光の祭典が行われます。)
6. Peggy est en train de repeindre le mur de la maison. (ぺぎぃは家の壁を塗りなおしている。)
7. Il y a beaucoup de crottes de chien dans la rue. (街中に犬の糞がとても多い。)
8. Veux-tu venir avec moi à la salle de sport? (私と一緒にスポーツジムに行きませんか?)
9. Tiens? Est-ce que cela ne serait pas les clefs de la voiture par hasard? (あれ?これはもしかして、車の鍵ではないか?)
10. As-tu pris tes clefs de voiture? Nous allons bientôt partir! (車の鍵は持ったかい?もうすぐ出発するよ!)
1. La chaleur de l’été
=> 文法的には「la chaleur d’été」と言っても問題ないのですが、今回は je suis à la plage と今現在ビーチに来ていると話しているので、明らかに「今夏」について話している。そのため、総称ではなく個体としてとらえるのが最適である。
2. La boîte de chocolats
=> 「チョコレート用の箱」なので、定冠詞 les は省く。
3. Le numéro de téléphone
=> 「ぺぎぃの電話」であることを強調したいのであれば、le numéro du téléphone de Peggy と言っても、文法的に問題はない。ただし、今回は飽くまで「ぺぎぃの」電話番号を聞き出したいのであって、「ぺぎぃの電話の」番号を聞き出したいのではない。微妙なニュアンスがわかるかな?
よって、個体ではなく総称。定冠詞 le は省いてもよい。
4. La ceinture de sécurité
=> これは他に言いようがないので、覚えておくとよい。シートベルトは上で説明したサングラスなどと同じように、定冠詞 la を必ず省き、ceinture de sécurité と言う。「安全用のベルト」という意味である。
5. La fête des lumières
=> これは少し難しい。今までのぺぎぃの説明から行けば、光は総称なので定冠詞 les を省いて fête de lumières にしてもよいのではないかと思われそうだが、実はこれは光であれば何でもよいというわけではなく、Sainte Vierge Marie(サンタマリア)のお祭りでもあるので、特別な聖なる光を指している。そのため、光を一般化せずに、fête de + les lumières = fête des lumières としていると思われる。まぁ、特殊な例外として覚えてみてもよいかもしれない。
6. Le mur de la maison
=> これは明らかに特定された家の壁であるため、定冠詞 la を省略することはできない。
7. Crottes de chien
=> これは総称としての犬の話であるので、定冠詞 les を省くことが可能である。
8. La salle de sport
=> よく使う表現である。「スポーツ用の部屋」ということなので、定冠詞 le を省く。
9. Les clefs de la voiture
=> ここは、文法的にはles clefs de voiture と言ってもよいのだが、「あれ?これは(一般的な)自動車用の鍵ではないか?」というのは些か不自然である。意味としては、「あれ?これは(お前の/我々の)車の鍵ではないか?」に近いため、個体としての車として扱う。
10. Les clefs de voiture
=> こちらも9.と同様、les clefs de la voiture と言っても文法的にはOKであるし、意味もさほど変わらない。しかし、今回は「あの車の鍵を持ったかい?」というよりは「車用の鍵は持ったかい?」という質問であるため、定冠詞 la を省いてもよい。
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ご丁寧な解説をありがとうございます。
正直なところ私には少し難しくて、今のところ判別できなさそうです。
でも、こういうことがあるんだと知っていることが大事だと思うので、機会のある度に意識しながら勉強しようと思います。
こんにちは。
冠詞には本当に悩まされています。de の後の冠詞がなくなっているように見える理由を探してやっとここに辿り着きました。今まで何度もぺぎぃサンのサイトに来ているのに冠詞の解説ページが私の検索ワードにヒットしなかったようで。
他のサイトで「deの後の冠詞が消えるパターン」というのを見つけた時は、これで謎が解けたと思ったのですが、それではどうしても説明のつかない文がいくつもあって困っていました。名詞補語というのは初めて聞きました。これでかなりスッキリしました。
が、まだ理解しきれていなくて、質問させていただきたい文があります。
C’est une maladie du nez et de la gorge.
これは総称のle nez, la gorgeと思ったのでdu nez, de la gorgeではなくde nez, de gorgeにならないのでしょうか?
よろしくお願いします。
cocoさん、こんにちは!コメントありがとうございます。
うーーむ…確かにおっしゃる通りで「C’est une maladie du nez et de gorge」や「C’est une maladie du nez」などのときには「de nez」「de gorge」とするのは不自然ですね。何故でしょう…
色々と考えてみたのですが、ここは理屈がまだぺぎぃにも分かりません。cocoさんが書かれているように総称の「le nez」「la gorge」なのでロジック的には「de」になるはずなのですが…
例えば「le ventre」や「la tête」にしてみても:
〇 J’ai un maux de ventre. / J’ai un maux de tête.
× J’ai un maux du ventre. / J’ai un maux de la tête.
なのに
× C’est une maladie de ventre. / C’est une maladie de tête.
〇 C’est une maladie du ventre. / C’est une maladie de la tête.
ですよね。うーーむ、なぜなのでしょう。
唯一こじつける理由を考えるとすれば、位置の話だからかもしれません。
ぺぎぃの記事の後半に書いたとおり「○○のタイプ」というものであれば「maux de tête(頭痛)」「maux de ventre(腹痛)」のように冠詞を省略できて、そうではないとき、例えば「une maladie du ventre(お腹の病気=お腹に位置している病気)」「une maladie de la tête(頭の病気=頭に位置している病気)」のように「○○にある/○○に位置している」ものに対しては省略できないとか、考えられそうです。
これが正しければ、例えば「l’économie de la France(フランスの経済=フランスというエリアでの経済、その位置からは外せないない)」は省略しないのに、「un vin de France(フランスのワイン)」「un fromage de France(フランスのチーズ)」というのは「フランス産の~」というタイプの話であり、フランスから輸出されて日本で販売されているから「de France」でなくなるわけではないものに対しては、省略が可能という説明にもつながりそうです。
・・・うーむ、奥が深いですね。自分でも書きながら何を言っているのかが分からなくなってきました。(笑)
少しでも回答になっていれば幸いです。
ぺぎぃ
何かしらの意味があるのだろうと思っていましたが、なるほど、そういう背景があったんですね!
お返事ありがとうございました😊
初めまして。
ペギーさんの解説はとても詳しいため、かなり助かっています!
前置詞、冠詞とは関係ないのですが、練習問題の5番でdécembreはなぜ大文字なのでしょうか?
けいこさん、コメントありがとうございます!
ご指摘ありがとうございます。正直に言ってしまえば、月の名前は文頭以外は小文字で書くべきなので「décembre」が正しく「Décembre」は間違いです。
これは長年ぺぎぃが抱えている悪い癖のようなもので、フランス語のカレンダーを見て育ったせいか何故か大文字ではないと気持ちが悪く、ついつい月の名前や曜日を大文字で書いてしまっています。皆様にとって悪い見本とならぬよう、直さなければいけませんね!(^▽^;)
他にも間違いを犯すフランス人が多いため、何となく一般的には大文字でも認められているような気がしますが、アカデミー・フランセーズのサイトにははっきりと「間違い」として書いてありました。
http://www.academie-francaise.fr/majuscules-aux-noms-de-jours-et-de-mois
記事を訂正しておきます!(*^▽^*)