フランス語では、名詞や形容詞などを複数形にするとき、単語の語尾に無音の「s」(または「x」)を付けるのが一般的である。
しかし、たまに
- Un arc-en-ciel
- Des arcs-en-ciel
のように、単語の語尾ではなく真ん中に「s」を付けたり、
- Un bateau-mouche
- Des bateaux-mouches
のように、二つの単語に同時に「s」や「x」を付ける必要が出てくる。
このように複数の単語で構成される言葉のことを「複合語」と呼ぶ。
- フランス語で複数形にすると「s」が付く複合語
- フランス語で複数形にしても「s」が付かない複合語
一般的な話をすると、複合語では形容詞と名詞だけが複数形の「s」や「x」を取り、動詞や副詞、前置詞などは不変のままとなることが多い。
しかし、先ほど挙げた例の「des arcs-en-ciel」のように、「ciel」は名詞でありながらも複数形で語尾に「s」を付けなかったりする複合語も存在する。
これはフランス語の文法の中でも非常にややこしく、難しい分野であるため、ネイティブであるぺぎぃですらしばしば間違うエリアである。
では、一体どうやって複数形の形をとる単語と取らない単語を見分ければよいのか?
それについてこの記事ではまとめていこうと思う。
目次
フランス語で複数形にすると「s」が付く複合語
複合語の複数形を形成するには、複合語を構成するそれぞれの言葉の性質を識別する必要がある。
一般的には、
- 複合語を構成する単語が二つとも名詞の場合
- 片方が名詞で、片方が形容詞の場合
- 複合語を構成する単語が二つとも形容詞の場合
これらのときには、複合語を構成する単語の両方に複数形の「s」を付けるとされている。
また、
複合語を構成する単語が前置詞で繋がっている場合
このときには、一般的には一つ目の単語だけが複数形の「s」を取るとされ、逆に
- 複合語を構成する単語の一つ目が不変の副詞や前置詞、接頭辞の場合
- 複合語を構成する単語の一つ目が動詞で、二つ目が名詞の場合
このときには、二つ目の単語だけに複数形の「s」を付けるとされている。
1-1. 複合語:「名詞 + 名詞」の複数形
ポイント
複合語が「名詞 + 名詞」と二つの名詞で構成されている場合、
複数形では両方の名詞に「s」が付く。
簡単な例を挙げるとすると、「un cotton-tige(綿棒)」や「un chou-fleur(カリフラワー)」などがある。
これらの複合語は二つの名詞を繋げたものなので、複数形にすると「des cottons-tiges」と「des choux-fleurs」となる。
他にも、
un balai-brosse ⇒ des balais-brosses(棒だわし・デッキブラシ)
un chien-loup ⇒ des chiens-loups(シェパード)
un oiseau-mouche ⇒ des oiseaux-mouches(ハチドリ)
un bateau-mouche ⇒ des bateaux-mouches(セーヌ川観光船)
などのように、おおよそ二つの名詞で構成される複合語のときには、複数形にしたときに両方の名詞に複数形の「s」を付けるのである。
例外~その①
複合語が「名詞 + 名詞」と二つの名詞で構成されていても、
本来は間に前置詞がくる場合には、複数形でも二つ目の名詞には「s」が付かない。
ここが少し難しいが、例えば「un timbre-poste(切手)」という時、「un timbre」も「une poste」も名詞であるが、複数形では「des timbres-poste」と二つ目の名詞「poste」には複数形の「s」を付けない。
何故かというと、これは「un timbre de poste(郵便局の切手)」という意味であるため、例え複数形にしても「des timbres de poste(郵便局の切手)」と「郵便局」の部分は意味合い的に複数形にする理由がないからである。
他にも
une année-lumière ⇒ des années-lumière(光年)
une pause-café ⇒ des pauses-café(コーヒー休憩)
un chef-d’œuvre ⇒ des chefs-d’œuvre(傑作)
などの言葉が存在する。
一つ目の「des années-lumière」の場合には「des années de lumière」、二つ目の「des pauses-café」は「des pauses pour café」の略だからと考えられる。
「des chefs–d’œuvre」の場合には、もともと間に「de」という前置詞が入っているので、複数形でも一つ目の名詞しか「s」をとらない。これについては1-6.で解説する。
例外~その②
複合語が「名詞 + 名詞」と二つの名詞で構成されていても、
一つ目の名詞が「-o」や「-i」で中途半端に終わるときには、複数形でも一つ目の名詞に「s」が付かない。
これはルールとして覚えておくしかないが、例えば「une tragédie」と「une comédie」を融合させた複合語「une tragi-comédie」の場合には、複数形にしても「des tragi-comédies」と一つ目の名詞「tragi-」の部分には「s」が付かないのである。
まぁ、言葉自体が途中で区切られているので、「s」の部分も切ってしまうと考えればわかりやすいだろう。
他にも、
un franco-allemand ⇒ des franco-allemands(フランス人とドイツ人のハーフ)
une auto-école ⇒ des auto-écoles(自動車教習所)
などの例が挙げられる。
1-2. 複合語:「形容詞+名詞」の複数形
ポイント
複合語が「形容詞 + 名詞」または「名詞 + 形容詞」構成されている場合、複数形では両方の単語に「s」が付く。
簡単な例を挙げるとすると、「un coffre-fort(金庫)」が挙げられる。
これは「強い箱」と書いて「金庫」という意味の言葉だが、「名詞+形容詞」で構成されているため、複数形では「des coffres-forts」とどちらの単語にも「s」を付けるのである。
他にも、
un petit-déjeuner ⇒ des petits-déjeuners (朝食)
une belle-sœur ⇒ des belles-sœurs(義姉・義妹)
un rond-point ⇒ des ronds-points(ロータリー)
une plate-bande ⇒ des plates-bandes(帯状の植え込み・平縁)
une longue-vue ⇒ des longues-vues(望遠鏡)
などが挙げられる。
例外~その①
複合語が「形容詞 + 名詞」で構成されていても、
一つ目の単語が「-o」や「-i」で終わるときには、
複数形でも一つ目の名詞に「s」が付かない。
これは考え方は「名詞 + 名詞」の時と基本的に同じで、一つ目の単語が「-i」や「-o」で終わる時には複数形の「s」を付けないと覚えておけばよい。
これは「半分」という意味の「demi」や「semi」の際にも該当する。
un micro-onde ⇒ des micro-ondes (電子レンジ)
une demi-bouteille ⇒ des demi-bouteilles(ハーフボトル)
une demi-journée ⇒ des demi-journées(半日)
un semi-conducteur ⇒ des semi-conducteurs(半導体)
例外~その②
形容詞「Grand」が付く複合語の場合、
複数形でも「s」を付けなくてもよいことがある。
これはちょっとややこしいルールなので、無理に覚える必要はないと思うが、「Grand」が付く言葉は複数形にしても「Grand」の後ろに「s」を付けなくても良い場合がある。
例えば「祖母」という意味の「une grand-mère」は複数形にすると「des grands-mères」と書いても良いし、「des grand-mères」と書いても良い。
ちなみにぺぎぃは個人的に「s」を付ける派であるため、このルールも現時点でこの記事を書きながら初めて知ったものである。正しいと言われているとはいえ、「s」を付けないとどうも違和感を感じてしまうぺぎぃである…
une grande-sœur ⇒ des grandes-sœurs / des grande-sœurs (姉)
un grand-frère ⇒ des grands-frères / des grand-frères(兄)
un grand-angle ⇒ des grands-angles / des grand-angles(広角レンズ)
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1-3. 複合語:「形容詞+形容詞」の複数形
ポイント
複合語が「形容詞 + 形容詞」で構成されている場合、
複数形では両方の単語に「s」が付く。
まぁ、これはものすごく簡単なルールで、複合語が形容詞のみで構成されている場合には、全ての単語に「s」を付けましょうというだけである。
un clair-obscur ⇒ des clairs-obscurs (明暗・薄明かり)
une sourd-muet ⇒ des sourds-muets(聾唖)
un roulé-boulé ⇒ des roulés-boulés(回転着地)
1-4. 複合語:「動詞+名詞」の複数形
ポイント
複合語が「動詞 + 名詞」で構成されている場合、
複数形でも動詞の方には「s」が付かないが、
名詞の方にはその言葉の意味によって「s」が付けられる。
これがおそらく今回で一番難しい話になるが、「動詞 + 名詞」で構成される複合語の場合には、その言葉の意味によって名詞の部分に「s」を付けるかどうかが決まってくる。
具体的な例を取ると、「un tire-bouchon(コルク抜き)」を複数形にする場合、「des tire-bouchons」となるが、
これは「コルク抜きがたくさんあれば、当然抜けるコルクの数も多くなるだろう」ということから「bouchons」にも複数形の「s」をつけるのである。
しかし、「un gratte-ciel(超高層ビル)」の場合には、仮に複数形にしたとしても「des gratte-ciel」と「s」が付かない。
何故なら、これは直訳すると「空を引っかく」という意味であるため、「超高層ビルをたくさん建てたところで、引っかくことができる空の数は変わらない」ことから「ciel」の部分には「s」を付けないということが想像できる。
他にも、単数形で「un sèche-cheveux(ドライヤー)」という言葉が存在するが、これは例え単数形であったとしても「ドライヤーが乾かすのは髪一本ではなく、必ず複数の髪の毛だ」という意味から「cheveux」の部分には単数形でも「x」を付けたりする。
un abat-jour ⇒ des abat-jour (シェード)
un porte-bagages ⇒ des porte-bagages(荷台)
⇒ もともと「荷物を複数持つため」なので単数形でも「s」が付く
un porte-parole ⇒ des porte-parole(スポークスマン)
un couvre-lit ⇒ des couvre-lits(ベッドカバー)
un couvre-feu ⇒ des couvre-feu(夜間外出禁止)
un pare-brise ⇒ des pare-brise(フロントガラス)
⇒ 「brise」とは微風のこと、数えることができない
un taille-crayon ⇒ des taille-crayons(鉛筆削り)
1-5. 複合語:「副詞+名詞」や「前置詞+名詞」の複数形
ポイント
複合語が「副詞 + 名詞」もしくは「前置詞 + 名詞」の場合、
複数形では名詞だけに「s」が付けられる。
これはそこまで難しいルールではなく、かなり論理的な話。
通常のフランス語の文法でも、副詞や前置詞に複数形で「s」が付かないように、複合語の場合にも副詞や前置詞には[s」が付かないというだけの話である。
un à-coup ⇒ des à-coups (不規則な動き・ノッキング)
une en-tête ⇒ des en-têtes(見出し飾り・レターヘッド)
une arrière-pensée ⇒ des arrière-pensées(下心)
un avant-goût ⇒ des avant-goûts(予感・前兆)
un non-lieu ⇒ des non-lieux(免訴)
1-6. 複合語:「名詞+前置詞+名詞」の複数形
ポイント
複合語が「名詞 + 前置詞 + 名詞」の場合、
複数形では一つ目の名詞だけに「s」が付けられる。
これはぺぎぃも良く間違う、少し複雑なルールだが、例えば「une pomme de terre(じゃがいも)」のように名詞が二つと間に前置詞がくる単語の場合には、複数形では「des pommes de terre」と一つ目の名詞だけに「s」が付くのが一般的である。
考え方としては1-1.の「例外~その①」で説明したように、間に前置詞が入る言葉はちょっと特殊だと覚えておくしかない。
他にも例を挙げると、
un arc-en-ciel ⇒ des arcs-en-ciel (虹)
un nid-de-poule ⇒ des nids-de-poule(道路にある小さなくぼみ)
un chef-d’œuvre ⇒ des chefs-d’œuvre(傑作)
un pot-de-vin ⇒ des pots-de-vin(わいろ)
などがある。
例外
次の言葉は複数形でも「s」が付かない:
un pot-au-feu ⇒ des pot-au-feu
un rez-de-chaussée ⇒ des rez-de-chaussée
極稀に例外も存在するが、「des pot-au-feu」や「des rez-de-chaussée」のように、どちらの名詞にも複数形で「s」が付かないという複合語も存在する。
他にも、似たような意味の「un rez-de-jardin」も複数形で「des rez-de-jardin」と「s」を付けない。
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フランス語で複数形にしても「s」が付かない複合語
本記事の冒頭でも説明したが、フランス語の複合語の複数形を形成するには、複合語を構成するそれぞれの言葉の性質を識別する必要がある。
ここまでは主に名詞や形容詞で構成されている複合語について見てきたが、この章では動詞や副詞、前置詞などの不変の言葉で構成されている複合語について見ていこう。
一般的には、これらの種類の言葉は複数形でも「s」が付かないことが多い。
2-1. 複合語:「動詞+動詞」の複数形
ポイント
複合語が「動詞 + 動詞」で構成されている場合、
複数形ではどちらの単語にも「s」が付かない。
これは割と簡単なルール。
一般的に動詞は複数形でも「s」が付かないように、動詞のみで構成されている複合語も複数形では「s」が付かないのである。
例えば:
un savoir-faire ⇒ des savoir-faire (ノウハウ)
un laissez-passer ⇒ des laissez-passer(通行許可証)
un faire-valoir ⇒ des faire-valoir(司会・進行役)
un va-et-vient ⇒ des va-et-vient(従来・行き来)
2-2. 複合語:「動詞+副詞」の複数形
ポイント
複合語が「動詞 + 副詞」で構成されている場合、
複数形ではどちらの単語にも「s」が付かない。
これも、理にかなっていると言えば理にかなっているルールである。
動詞と同じように、フランス語では副詞も複数形では「s」が付かないため、動詞と副詞を含む複合語も複数形では「s」が付かないと考えればよい。
例えば、
un passe-partout ⇒ des passe-partout (マスターキー・合鍵)
un essuie-tout ⇒ des essuie-tout(ペーパータオル)
un mange-tout ⇒ des mange-tout(さやごと食べられる豆)
などの例が挙げられる。
2-3. 複合語:「動詞+前置詞+名詞」や「動詞+冠詞+名詞」の複数形
ポイント
複合語が「動詞 + 前置詞 + 名詞」、
または「動詞 + 冠詞 + 名詞」で構成されている場合、
複数形ではどの単語にも「s」が付かない。
これは1-6.で紹介した「名詞 + 前置詞 + 名詞」で構成される複合語が、複数形では一つ目の名詞にしか「s」が付かないのと全く同じ論理で、「動詞 + 前置詞/冠詞 + 名詞」で構成される複合語の場合にも、二つ目の名詞には「s」が付かず、更に動詞の方にも2-1.と同じ理由で「s」が付かないのである。
では、「動詞 + 前置詞 + 名詞」や「動詞 + 冠詞 + 名詞」などの複合語にはどのようなものがあるのか、少し例を挙げてみると:
un trompe-l’œil ⇒ des trompe-l’œil (だまし絵)
un trompe-la-mort ⇒ des trompe-la-mort (タフガイ)
un tape-à-l’œil ⇒ des tape-à-l’œil(けばけばしい物)
une pince-sans-rire ⇒ des pince-sans-rire(何食わぬ顔で皮肉やユーモアジョークを言う人)
などの言葉が存在する。
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2-4. 複合語:「色」に関係する形容詞
ポイント
複合語が色に関係する形容詞や名詞の場合、
複数形では「s」が付かない可能性が高い。
曖昧な表現で申し訳がないが、1-2.や1-3.で紹介した名詞や形容詞を含む複合語の例外的な存在として、「色に関係する複合語」というものがある。
どういった理由なのか、ぺぎぃに聞かれても困ってしまうが、これらの複合語は複数形にしても「s」を付けないことが多い。
例えば、
une chemise bleu ciel ⇒ des chemises bleu ciel(空色のワイシャツ)
un cahier vert clair ⇒ des cahiers vert clair (黄緑のノート)
une cravate rouge tomate ⇒ des cravates rouge tomate (真っ赤なネクタイ)
une table café-au-lait ⇒ des tables café-au-lait (薄茶色/カフェオレのような色のテーブル)
une truite arc-en-ciel ⇒ des truites arc-en-ciel (ニジマス)
と言った言葉が挙げられる。
2-5. 複合語:「表現」の複数形
そして最後に、その他の「表現」の複合語について解説する。
とはいえ、特にこれと言ったルールのようなものは発見できなかったため、最後に「その他」としてまとめているわけだが、例えば「無法者」という意味の「un hors-la-loi」という言葉は複数形でも「des hors-la-loi」と「s」を付けない。
このように、様々な種類の単語を複数個集めてくっつけた複合語は、フランス語では複数形にしても変化しないことが多い。
他にも「その他」枠に入る表現や単語には:
un je-ne-sais-quoi ⇒ des je-ne-sais-quoi(言い表しがたいもの)
un va-t-en-guerre ⇒ des va-t-en-guerre (掛け声だけ勇ましい男)
un haut-le-cœur ⇒ des haut-le-cœur (吐き気・嫌悪)
un sot-l’y-laisse ⇒ des sot-l’y-laisse (家禽の腰骨のくぼみについている肉)
などがある。
まぁ、めったに使うような言葉ではないので、特に覚える必要はないと思うが、表現っぽい複合語があるときには、複数形では「s」が付かない可能性が高いことを頭の片隅に置いておくことをおすすめする。
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